相続税の申告漏れするとペナルティが課せられることをご存知ですか?
特に意図的に相続財産を隠した場合や、相続税の申告漏れが発生した場合は追徴課税が大きくなります。
相続税の無申告よりは、過少申告の方がペナルティが少なくなります。
今回は、相続税の申告漏れや無申告に対するペナルティがどの様なもので、どの位の追徴課税が発生するのかについて解説します。
相続税の申告漏れが発生するとペナルティは厳しい!
相続税の申告が漏れるとペナルティが課せられます。特に意図的に相続財産を隠した場合や、申告が遅れた場合はペナルティとなる追徴課税が大きくなります。
相続財産は絶対に隠さないこと、未知の財産が見つかった時もすぐに申告することを心得てください。
また、相続税には連帯納付の義務があるため、滞納している相続人が1人でもいると他の相続人にも請求がいくことになります。
なお、無申告よりは過少申告の方がペナルティ額が少なくなるので、早めに申告してしまいましょう。
なお、相続税を払い過ぎていた場合には、修正申告をすることにより、払い過ぎた相続税が返ってくる可能性が高いです。
但し、税務署は、相続税が過大に計算されていたとしても、教えてくれることはありません。
過少申告した場合の加算税
期日通りにしっかり申告したのに評価額の違いや、隠し財産の発覚などで相続税の支払いが少なかった場合、修正申告が行なえます。
税務調査の通知が来る前に気付いてすぐに行動すればペナルティの対象とはなりません。
税務調査の通知後に対応した場合は、追加納付額の5%が、税務調査後の支払であれば追加納付額の10%が加算されます。
延滞税
相続税の申告はしたけど、納付期限までに支払われなかった場合には、延滞税がペナルティとして加算されます。
- 納付期限から2か月以内であれば年利7.3%
- 納付期限から2か月超の場合は年利14.6%
※ペナルティの税額については毎年見直しがされています。
この税率は毎年見直しがされているため、大きな値変動は無いと思いますが、この数字より大きい場合もありますので、注意が必要です。
例えば、納付期限から1年が過ぎており、5億円の相続支払われなかった場合は、
5億円の相続税は50%、控除額が4,200万円なので、20,800万円の相続税ですが1年の延滞なので、
20,800万円 X 14.6% = 3,037万円の加算が加わり、23,837万円
の税額が課せられるということになります。
なお、修正申告の場合は修正申告をした日以降の納税が延滞として扱われます。
税額の変動は通常の延滞税と一緒です。
無申告加算税
無申告加算税は、相続税の申告書を期限までに提出しなかったことにより課せられるペナルティです。
つまり、納付の延滞かつ無申告という場合は、両方のペナルティが課せられます。
- 自主的に申告した場合は納付税額の5%
- 税務調査の通知を受けて納付した場合は10%以上
- 税務調査によって発覚した場合は税額の15%以上
※ペナルティの税額については毎年見直しがされています。
例えば、納付の延滞かつ無申告で、納付期限から1年が過ぎており、、5億円の相続が税務調査によって発覚した場合は、
23,837万円に更に、20,800万円 X 15%=3,120万円の加算が加わり、26,957万円
もの税率が課せられるということになります。
このため、期限をしっかり守って納税するようにしましょう。
重加算税
故意に申告をしなかった場合や、財産が無いように見せかけた場合には、重加算税として更にペナルティが重くなります。
相続法は難しいですが、重加算税についてはれっきとした故意な悪事に課されるペナルティなので、他の税金に比べて非常に重くなっています。
- 申告書を提出したが、故意に財産を隠したり、証拠書類を偽装した場合は納付税額の35%
- 申告そのものをせずに財産を隠したり、証拠書類を偽装した場合は納付税額の40%
※ペナルティの税額については毎年見直しがされています。
しかも、この額に無申告税や延滞税、過少申告税が「上乗せ」されます。
例えば、納付の延滞かつ無申告で、納付期限から1年が過ぎており、5億円の相続が税務調査によって故意に隠したと判断された場合には
26,957万円に更に、20,800万円 X 40%=8,320万円の加算が加わり、35,277万円
もの税率が課せられるということになります。
重加算税の更にその先
重加算税の要件に当たる行為を繰り返した場合は、
- 申告を偽装した場合に45%
- 申告すらしなかった場合は50%
※ペナルティの税額については毎年見直しがされています。
例えば、納付の延滞かつ無申告で、納付期限から1年が過ぎており、5億円の相続が税務調査によって故意に繰り返し隠したと判断された場合には
26,957万円に更に、20,800万円 X 50%=10,400万円の加算が加わり、37,357万円
の税率が課せられるということになり、もはや、5億円の相続をしても12,643万円しか手元に残らないことになってしまいます。
相続税の修正申告が必要な場合とは、
相続税の申告については、修正申告を行うことが可能です。
修正申告を提出される方の割合は非常に多く、相続税の申告をされた方の約8割の方が修正申告を実施しています。
なお、その内、申告漏れしていた財産は何と3,942億円にも及びます。
ほとんどのケースが意図的に隠ぺいしていた訳ではなく、申請しなければならないことに気が付かなくて「こんなものまで申告の対象になるの?」という感じで申請漏れとなってしまっている様です。
相続税の申告漏れを100%防ぐことはプロでも難しく、修正申告により修正されているのが実態の様です。
少なくとも、事前に漏れなく「遺産総額」として「財産目録」に記載できていれば防げるものも多いので、「遺産総額」の調査については漏れなくおこなう様にしましょう。
「遺産総額」の調査方法については、以下の記事で紹介しています。
隠し財産が申告後に発見された場合
これはよくあるパターンです。
相続税を申告した後に隠し財産が見つかる場合、または遺産分割協議が終わって見つかったお金を申告しないで放置しておく場合などがあります。
このような場合はすぐに修正申告を申し出ることが大切です。
時には税務調査を経て隠し財産が発見されることもありますが、申告漏れに正当な理由があればペナルティを課せられません。
ばれないところに置いてあった現金
タンス預金やへそくりというものはいつも巧妙に隠されているものです。預金通帳が隠されている場合もあります。本人が忘れていることさえあるのが厄介ですね。
誰も知らなかった土地
税務調査で初めて知らない土地の所有を知ることになる。そんな場合もあります。権利書は残さず確認しましょう。
ゴルフ会員などは要注意
ゴルフ会員権のように、死亡や退会を通してお金が返ってくるサービスに加入している場合はそのお金も相続税の計算に入ります。
財産の評価価値を誤った場合
財産はすべて申告したけれど、財産の価値を間違えた場合は修正申告の対象となります。
不動産や自社株の評価額の算出は、非常に難しいものです。
家も建てられなさそうながけ地であってもしっかりと評価しなくてはいけません。土地の相続税評価額は時価に従うのですが、プロでも評価額にばらつきが発生します。
不動産の評価額の求め方については、以下の記事で紹介しています。
また、骨董品や故人が趣味で集めていたものなどは、個人の判断で勝手に「価値がなさそうだから無視」とすることはできません。
あなたの判断ではなく、市場での価値で決まるからです。
「なんでも鑑定団」でも古ぼけた茶碗が1億円とかの値が付くこともあるため、専門家に鑑定を依頼する様にして下さい。
なお、骨董品の鑑定については、以下の記事でも紹介していますので参考にしてみて下さい。
有価証券のように知らない人にとっては財産かどうか迷ってしまうものもあるので、基本的には故人の持ち物や契約書の調査は専門家に見てもらう様にしましょう。
財産を意図的に隠した場合
財産を意図的に隠している場合は、当然修正申告の対象となります。
申告していない場合に税務署から指摘されてしまうと、加算税の対象となってしまいます。
以下の記事にあるように、税務署は、「国税総合管理(KSK)システム 」により、常に国民の財産を監視していることを忘れないでください。
法律を誤解していた場合
相続税に関する法律内容は複雑であり、相続人だけで判断してしまうと申告ミスにつながります。
このため、抜けがない様に「財産目録」を作成して、税理士に相談する様にして下さい。
生前贈与は亡くなる7年前までが対象です。
生前贈与については、持ち戻しの税制が改定され今まで3年だったものが7年に延期されました。
持ち戻しとは、被相続人が亡くなったときに相続する財産以外で、相続人に贈与されていた財産を相続財産として計算に含むことをいいます。
通常、贈与は、その年の1月1日から12月31日までの1年間で贈与を受けた財産の合計額から、基礎控除額である110万円を差し引いた残りの価額へ課税がなされます。
しかし、持ち戻しの期間中に行われた贈与については、相続時に贈与額を相続財産に加算して、相続税を課税することになっています。なお、令和5年の税制の改正によって、暦年贈与において持ち戻し期間が7年に延長されましたが、延長した4年間に受けた贈与のうち、総額100万円までは相続財産に加算しないこととなっています。
相続税の課税を安くするために生前贈与に頼るケースが良くあります。しかしながら、7年は生前贈与ができないということです。
たとえ生活費や教育費を月に数万円もらっていたという場合でも相続財産として計算しなければいけないので、もらったお金はしっかり記録しておく必要があります。
7年間(令和6年1月1日以前は3年)で生前贈与したものについては、一旦相続税に加算され、算出された後、余剰分が発生する場合には、還付金として返却されます。
なお、贈与契約そのものは有効です。
遺産分割の割合が変わった場合
相続税の申告をした後に、遺産分割協議により遺産分割の割合が変更された場合には、修正申告をする必要があります。
相続税の申告は被相続人の死亡から10か月以内に行うのですが、その間に遺産分割協議がまとまらないこともあります。
その場合は、相続の割合等が決定していないため、最終的な相続の分割割合に従い、相続税を再度計算し直して、修正申告をします。
配偶者は相続税に対して優遇措置があり、他の相続人と比較して税額が低くなる様に制度設計がされています。
このため、相続割合を配偶者に寄せる等の措置を講じることにより節税効果を発揮することが可能です。
税務署からの「お訪ね」が来た場合の対処方法
税務署から来る「お訪ね」については主に以下の2種類があります。
- 「相続税についてのお知らせ」
税務署が、独自の調査により、相続税を申告する必要がある可能性が高いと判断した相続人に申告を促すために送付するものです。 - 「相続税申告等についてのご案内」
こちらも同様に相続税を申告する必要がある可能性が高いと判断した相続人に申告を促すために送付するものです。
「相続税についてのお知らせ」よりも高い確率で申告が必要であろうと判断している場合に送付されます。
また、通常「相続税の申告要否検討表」が同封されています。
相続税についての「お尋ね」は、いつ、誰に届くのか?
相続開始から6か月~8か月が経ったタイミングで税務署から「お尋ね」が届く様です。
「お尋ね」については、ランダムで送付されるものではなく、税務署が相続税の申告が必要な可能性があると判断した相続人に対して送付されています。
- 何で税務署がそこまで解るの?
と思われるかもしれませんが、以下の記事にあるように、税務署は、「国税総合管理(KSK)システム 」により、常に国民の財産を監視しています。
税務署は亡くなった方の過去の所得税や相続税の確定申告のデータ以外にも市区町村役場や法務局、金融機関等から職権で以下のような情報を入手することが可能です。
・死亡の事実
・所有する不動産
・預貯金、有価証券
・借入金
これらの情報から亡くなった方の財産を推定し、相続税の申告が必要な可能性の高い相続人に「お尋ね」を送付しているのです。
相続税の「お尋ね」を無視することは可能?
「相続税についてのお尋ね」が届いた場合には、速やかに相続税の申告をする必要があります。
しかしながら、以下の様な場合には、無視することが可能です。
- 相続税の申告準備をしている場合
⇒すでに相続税の申告の準備を進めている場合は、回答しなくても大丈夫です。
相続税の申告期限である相続発生から10か月以内に申告をしましょう。 - 相続税の申告が不要な場合
⇒すでに相続税の申告の要否を検討済で、申告書の提出が不要であると判断している場合には無視することは可能ですが、税務署は疑いを持って「お尋ね」を送付しているので、回答して申告が不要であることを証明してしまう方が良いかと思います。 - 相続税の申告が必要かどうか不明な場合
⇒相続税の申告が必要かどうか不明な場合や、まだ検討を行っていない場合は、速やかに申告することをおすすめします。
相続専門の税理士であっても、相続税の申告には通常4か月程度はかかります。このため、専門家に依頼して申告書の作成速度を早める必要があります。
相続税の還付は「更生の請求」が必要
相続税を過大に申告してしまった場合には、過少申告の場合と同様に修正申告を行います。
既に、相続税を払ってしまっていた場合には、「更正の請求」手続きをおこないます。
更生の手続きは納税申告書を出した税務署長あてに請求する形で行います。
提出する書類は請求書及び更生の根拠となる資料(遺産分割協議書や土地の評価額照明など)です。
更生請求が認められた場合は、
- 払いすぎた税金が返ってくる
- 還付される金額に7.3%の還付加算金が追加されます。
「更生の請求」は、納税申告書の提出から5年以内という期限があるため、気づいたらすぐに手続きしましょう。
相続税の申告期限は亡くなってから10ヶ月なので、亡くなってから数えると5年10ヶ月が還付の期限ということになります。
ただし、「更正の請求の特則」があり、
- 相続放棄の取り消しや相続人の廃除の取り消し、遺留分による減殺請求があり返還や弁償すべき額が確定した場合
- 遺贈に係る遺言が発見された場合や遺贈の放棄があった場合
などは、その事実が生じた日から4ヶ月以内に請求しなければなりません。
どんな時に、相続税還付がおこなわれるのか?
ほんの一例ですが、以下の様な場合に発生します。
相続財産の中に土地がある場合
土地の評価額の計算はに税理士の経験により差があります。
土地の評価額の計算は複雑であり、計算だけで単純に評価できるものではありません。
広いかどうか、歪んでいるか、がけがあるか、かげ地かどうかという、見た目だけで判断出来ない場合いも多数存在します。
とにかく、相続財産に土地があればダメ元でも還付の可能性を診断してもらった方が良いと考えて下さい。
土地の税金は高額になりやすいので、もしかしたら、大きな金額が戻ってくるかもしれませんよ。
相続税の計算を税理士に依頼しないで相続人だけで行った場合
相続税の計算は、相続の専門家であれば問題ありませんが、プロの税理士であってもしばしば間違えてしまうものです。
ましてや、相続人だけでインターネットの情報や本の内容に従って計算してしまうと、必ず間違いがあると思って間違いありません。
税理士には専門分野があり、相続という領域だけでも膨大な知識や経験が要求されます。
また、毎年のように税制改正が発生しているので、専門性を維持していくことは大変なことです。
相続以外の税目にも時間を割きながら相続の専門性を維持していくということは困難な事なのです。
したがって、相続以外の税目も扱っているような税理士が申告を行っていた場合には、還付の可能性が高くなります。
相続税に対する時効は存在するのか?
相続税の修正申告は絶対に放置してはいけません。
もし、申告ミスに気付いても放置すればペナルティは増えていきますし、修正申告が遅れた場合も延滞税がかかってしまいます。
相続税の時効は原則、申告期限から5年であり、悪質と判断される場合には7年に延長されます。
相続税の時効が7年になるのは、具体的に次のようなケースが考えられます。
- 相続税という制度を知らなかった
- 数億円の財産を相続したが、基礎控除の範囲だと思っていた(基礎控除額を知らなかった)
- 申告義務があるという事実を知りながら申告しなかった
- 相続税の申告期限を忘れていた
- 相続税が払えないから申告しなかった
- 遺産分割協議が長引いてしまって申告期限を過ぎた
時効が成立すれば納税義務は無くなるので、時効まで逃げ切った方がお得ではないかと考える方もいるかもしれませんが、絶対に逃れられないと考えた方が無難です。
相続税の時効が成立すれば申告義務や納税義務は無くなりますが、税務署は納税者の相続を超えたあらゆる手段を駆使して情報を収集していますので、逃げ切るというのは非常に難しいことです。
また、バレた時のペナルティもとても重いものです。
税務調査は時効前におこなわれます
税務調査とは、納税者が正しく相続税の申告や納税を行っているかどうか調査することです。
税務調査がおこなわれるのは相続税の申告期限から1~2年後の秋ごろが最も多いですが、時効前であればいつおこなわれてもおかしくはありません。
もし税務調査に選ばれてしまった場合には、調査官は徹底的に追及してきます。
- 死亡の直前に行われた現金引出しの経緯
- 亡くなった方の相続開始直前の状態
- 意識はいつまであったのか
- 昏睡状態がどのくらい続いたのか
- 通帳やカードの管理は誰に任せていたのか等
根掘り葉掘り聞いてきます。
まとめ
相続税は、原則5年、悪質な場合でも7年で時効が成立します。
しかしながら、税務署を相手に時効まで逃げ切るのはほとんど不可能であり現実的ではありません。
バレてしまった場合のペナルティはとても重いので、相続した財産のほとんど、もしかしたら、相続した財産より重い税金が課されてしまいます。
このため、相続税の申告は故人が亡くなってから必ず10ヶ月以内に、正しく申告するようにしましょう。
また、相続税の申告は非常に複雑であるため、相続人だけで行なおうとせずに、申告前には必ず専門家に確認してもらう様にしましょう。
以下の記事では、税務調査に詳しい税理士を紹介していますので、是非参考にして下さい。
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