オーナー社長にとって、事業承継は非常に大きな問題です。
どのタイミングで誰に引き継ぐのか、後継者をどう育成するかなど、問題は数多くあります。
非上場会社の事業承継では、後継者へ株式を引き継がせようとすると贈与税や相続税の負担が重くなりがちで、それが円滑な事業承継を阻害する要因となることがしばしばあります。
贈与税・相続税が払えないことで事業が承継できなければ本末転倒です。
そこで利用できるのが、自社株式にかかる贈与税・相続税の納税猶予制度です。
これは、中小企業のスムーズな事業承継を支援するために制定された「中小企業経営承継円滑化法」における、遺留分の特例と並ぶ大きな柱です。
自社株の事業承継税制は、贈与と相続の両方に適用できますので、これを連続して適用することにより、相続税の税負担を軽減し、事業承継の円滑化を図る制度です。
そこで今回は、事業承継に関する特例として利用できる「非上場株式等についての贈与税の納税猶予及び免除の特例」を説明します。
事業承継税制の概要
経営者が70歳を超える中小企業・小規模事業者は半数を超えると言われています。
一方で、事業承継はすぐに結果の出る問題ではなく、時間をかけて行っていくものです。
円滑な事業承継のために、制定された制度です。
「非上場株式等についての贈与税の納税猶予及び免除の特例」とは
非上場の会社にて事業承継が絡む相続に必ずつきまとうのが、自社株の問題です。
生前に自社株の対策を何もしていなかったりすると、相続が発生した際に多額の税金を現金で納税する必要があるため、それだけで、遺産が相続できない状況が発生したりします。
このため評価額算定のために、類似業種比準方式や純資産価額方式といった専門的な評価方法を用いて評価して、「自社株式の引下げ対策」をおこなってみたりするのですが、思ったほど効果が出なかった場合などは、相続税の納税資金の問題に直面します。
遺産の流動性資産がそれなりにある場合や相続人自体がそれなりの現金を持っている場合には、問題を回避することができるのですが、そうでない場合は、会社や同族株主に自社株を買い取ってもらうなどの対策が必要となります。
同族株主が買取る場合には、支配権の問題があるため、大量に引き取って貰うと経営権自体を失うことになります。
会社で買い取る場合には、相続税の納税資金を賄うことができても、会社の運転資金を圧迫する結果となるため、会社の資金繰りが苦しくなってしまいます。
また、非上場の株式は換金が難しいので、少数株主であった場合には、評価額が低く引き取られてしまいます。
そのため、中小企業の経営者の高齢化が進行する中で、円滑な事業承継を支援しようと設けられたのが、事業承継に伴う自社株式の移転に限った「非上場株式等についての贈与税の納税猶予及び免除の特例」いわゆる「事業承継税制」です。
「非上場株式等についての贈与税の納税猶予及び免除の特例」の内容
「非上場株式等についての贈与税の納税猶予及び免除の特例」の内容は以下の通りです。
後継者である相続人等が、相続等により、経営承継円滑化法に基づく都道府県知事の認定を受ける非上場会社の株式等を被相続人(先代経営者)から取得し、その会社を経営していく場合には、その非上場株式等に係る相続税について、一定の要件のもと、その納税を猶予するというものです。
さらに、後継者の死亡等により、納税が猶予されている相続税の納付が免除されます。
平成30年度税制改正において、これまでの措置(一般措置)に加え、令和9年12月31日までの10年間の時限措置として特例措置が創設されました。
この特例措置の適用を受けるためには、会社の後継者や承継時までの経営見通し等を記載した「特例承継計画」を策定し、認定経営革新等支援機関の所見を記載の上、都道府県知事に令和6年3月31日までに提出し、確認を受ける必要があります。
特例措置と一般措置の制度の主な違いは次の表のとおりです。
特例措置 | 一般措置 | |
事前の計画策定等 | 特例承継計画を都道府県に令和6年3月31日までに提出が必須 | 不要 |
適用期限 | 令和9年12月31日までの相続・贈与 | なし |
対象株数 (議決権に制限のない株式等に限る) |
全株式 | 総株式数の最大3分の2まで |
納税猶予割合 | 100% | 相続等: 80%、贈与:100% |
承継パターン | 複数の株主から最大3人の後継者 | 複数の株主から1人の後継者 |
雇用確保要件 | 要件を満たさなかった理由等を記載した報告書を都道府県知事に提出し、確認を受ける必要がある | 承継後5年間 平均8割の雇用維持が必要 |
事業の継続が困難な事由が生じた場合の免除 | 譲渡対価の額等に基づき再計算した猶予税額を納付し、従前の猶予税額との差額を免除 | なし (猶予税額を納付) |
相続時精算課税の適用 | 60歳以上の贈与者から18歳以上の者への贈与 | 60歳以上の贈与者から18歳以上の推定相続人(直系卑属)・孫への贈与 |
相続税の納税猶予制度
相続の納税猶予制度とは、現経営者の死亡により後継者が自社株を相続する場合に適用される「相続税の納税猶予・免除制度」をいいます。
この場合、納税猶予される税額は、後継者が納付すべき相続税のうち、一般措置では自社株に係る課税価格の80%に対応する額、特例措置では自社株に係る課税価格の100%に対応する額です。
このため、本特例の利用を検討されている方は、急いで届け出をした方が良いです。
贈与税の納税猶予制度
贈与税の納税猶予制度とは、現経営者から後継者が自社株を贈与される場合に適用される「贈与税の納税猶予・免除制度」をいいます。
この場合、納税猶予される税額は、後継者が納付すべき贈与税のうち、自社株に係る課税価格の全額に対応する額となります。
相続税・贈与税の納税免除
相続税・贈与税の猶予税額は、後継者が死亡した場合等は納税が免除されます。
ただし、相続税・贈与税とも申告期限から5年間は、下記の要件を満たし、事業を継続することが必要になります。
- 後継者が代表者であること
- 株式等を継続保有していること
- 5年平均で雇用の8割を維持していること
- 上場会社、資産管理会社等に該当しないこと
条件を満たさなかった場合は、猶予された税額を全額納付しなければならないため、適正なプランニングが必要です。
本特例の対象
前述のとおり、事業承継を円滑に行うことを目的とした税制であるために、基本的には中小企業の経営を引き継いでいく後継者が対象です。
なお、上場会社・風俗営業会社、資産管理会社等は対象外となります。
また、単に自社株式の移転を促すだけではなく、あくまでも経営者から経営者へと株式を引き継ぎ、事業を継続させることが、この制度の目的です。
そのため、自社株式を渡す側の先代経営者は、会社の代表権を有していたこと、会社の筆頭株主であることなどが要件になります。
また、受け継ぐ側の後継者も筆頭株主になることや、相続であれば相続開始の直前において役員であり、かつその5カ月後には代表者である必要があります。
贈与の場合においても3年以上役員であり、かつ代表者であることなどが要件となります。
要件のまとめ
上記で説明してきた内容を纏めると、相続前、贈与税の納税猶予の適用要件は以下の様になります。
項目 | 相続税及び贈与税の適用要件の主なもの |
会社要件 | ①中小企業者であること ②上場会社、風俗営業でないこと ③従業員は1人以上いること ④資産管理会社に該当しないこと |
先代経営者要件 (被相続人または贈与者) |
①会社の代表者であったこと ②相続開始直前において、先代経営者とその親族等で総議決権の過半数を保有し、かつ、これらの者の中で筆頭議決権者であったこと ③贈与税の場合、①②に加え、贈与時に代表取締役でないこと。 |
後継者要件 (相続人または受贈者) |
①代表者であること(相続の場合、相続開始から5カ月以内に) ②相続開始の直前において役員であること ③贈与日に20歳以上で、贈与の直前3年以上役員であったこと ④相続開始時、贈与時において、後継者とその親族などで総議決権の過半数を保有し、かつ、これらの中で筆頭議決権者であること。 ⑤申告期限まで相続株式または贈与株式を継続保有していること |
特例を継続適用するための要件 | (1)5年間の事業継続要件 ①後継者が会社の代表者であること ②納税猶予の対象株式を継続保有していること ③5年平均で雇用の8割以上を維持していること ④会社要件を満たしていること (2)5年経過後の要件 ①納税猶予の対象株式を継続保有していること ②資産管理会社に該当しないこと、総収入金額がゼロでないこと |
非上場株式等についての相続税の納税猶予および免除の特例に対する手順
まとめ
条件さえ整えばメリットの大きい納税猶予ですが、相続税の場合は、相続が起こるまでに取れる対策が他にも色々とあるので、納税猶予はそれらと併行して利用することが重要です。
また、将来の相続に備えて、早めに後継者を役員にして3年経過させておくことが必須です。
したがって、計画的な事業承継プランを立てて、その中に納税猶予を組み込む形で利用していく必要があります。
なお、納税猶予を受けたあとに要件を満たせなくなった場合にはは、猶予された税額だけでなく、利子税も含めて全て納付しなければならないので要件に気をつけておきましょう。
この「非上場株式等についての贈与税の納税猶予及び免除の特例」を利用するのであれば、その後の会社経営に関してきちんと見通しを立て、事業を継続していくことが肝要です。
なお、これらのプランを立てるのが難しい場合には、相続に詳しい税理士の相談してみては如何でしょうか?
以下の記事では、相続専門の税理士をご紹介していますので参考にして下さい。
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