個人事業主が法人化すると相続税を大幅に減らすことが可能です。
遺産相続において会社の財産は相続できません。
個人事業主の預貯金を始めとして事業用財産は相続税の対象となるります。
しかしながら、法人にすると、法人自体を1人の別人格として判断されるので、故人の相続税の対象とは見做されないのです。
法人は、人ではないが法律上人として扱うということです。
個人事業主は法人化することにより、個人と法人の別々の人格に分かれるため、各々独立して相続税を計算することが可能なのです。
今回は、個人事業主が法人化するメリット ・デメリットについてお伝えします。
個人事業主と法人の違い
前述したように、個人事業主と法人は別人格です。
個人事業主は、事業内容も全て含めて1人の人として税金を支払います。
一方、法人では、別々の人なので、税金も別々に支払います。贈与税や相続税についても同様に納税を別々に行います。
経営者は、自分の給料を会社の経費として経営者自身に支払うのです。
会社は1人から法人として設立することができるため、法人化することにより社員を増加したりする必要はありません。
つまり、1人の人格を複数にすることにより、1人に掛かる税金を減らせるということです。
ただし、デメリットとしては、『相続とは、人が亡くなった時に初めて発生するもの』なので、死亡という概念が無い法人には、相続が発生しませんので、親族への財産相続も発生しないのです。
法人の相続は、『事業承継』と言われており、個人の相続とは異なります。
遺族が法人から財産を相続するには、『事業承継』を行わないといけないのです。
もちろん、『事業承継』した人も、個人と法人の人格となるため、直接法人の財産を個人が相続する訳ではありません。先代の法人格の財産が後継者の法人格の財産に移動するだけです。
このため、『事業承継』の際には『親族内承継』をして財産を相続するのです。
なお、『事業承継』に対する詳細については、以下の記事で紹介していますのでご参考にして下さい。
法人の財産を個人に移す方法
法人の財産を個人に移す方法は、以下の様なものがあります。
法人から個人への給与
経営者が個人から法人へ毎月支給する給与額は、法人の社内規定として定めることが可能です。
給与額を増やしたり、臨時ボーナスを出したりすることは可能なので、会社の規定に則って財産移転をおこなうことが可能です。
ただし、給与には所得額に従って所得税が課されるので注意が必要です。
死亡退職金や死亡保険金の支給
会社の規定を設けることにより、法人から『死亡退職金』や『死亡保険金』を遺族に渡すことが可能となります。
株式配当金の還元
法人は会社の業績に従って、利益を株主に還元することが可能です。
個人が保有していた株は遺族に相続することが可能なので、その配当金を受領できる権利も遺族が引き継ぐことが可能です。
ただし、株を相続すると相続財産が増え、相続税が大きくなってしまう場合もあるので事前に相続対策をおこなっておきましょう。
以下の記事では、自社株式評価額の引き下げ方法についてご説明していますのでご参照下さい。
個人事業を法人にするメリット
今までの話で、個人事業主が法人化すると相続税の節税になることは理解できたかと思いますが、個人事業主が法人化するメリットは、相続税の節税以外にもメリットが多数存在します。
個人事業主を法人にして運営するメリットとしては以下の様なものがあります。
税金の納税額の違いによるメリット
個人事業主の場合は、稼いだ利益は全て個人の利益として所得税を計算します。
法人の場合には、利益に対して法人税が掛かります。
単純に所得税と法人税を比較してみると、以下の様になります。
個人事業主 | 課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
所得税 | 195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円を超え、330万円以下 | 10% | 9万7,500円 | |
330万円を超え、695万円以下 | 20% | 42万7,500円 | |
695万円を超え、900万円以下 | 23% | 63万6,000円 | |
900万円を超え、1,800万円以下 | 33% | 153万6,000円 | |
1,800万円を超え、4,000万円以下 | 40% | 279万6,000円 | |
4,000万円超 | 45% | 479万6,000円 | |
特別復興所得税 | 所得税税額x2.1% | ー | |
個人事業税 | 業種ごとに異なり、3~5%の間 | 290万円 |
法人 | 利益(所得)額の税率[%] | |||
400万円以下 | 800万円以下の部分 | 800万円超の部分 | ||
資本金1億円以下の法人 | 法人税 | 15% | 15% | 23.2% |
復興特別法人税 | 法人税額 × 10% | |||
法人事業税 | 3.4% | 5.1% | 6.7% | |
資本金1億円超の法人 | 法人税 | 23.2% | 23.2% | 23.2% |
復興特別法人税 | 法人税額 × 10% | |||
法人事業税 | 0.3% | 0.5% | 0.7% |
上記の税率で計算すると、以下の様なグラフになります。
個人事業主と法人で比較すると、年間所得900万円までなら個人事業主、年間所得900万円を超える場合には、法人にすることにより納税額が削減されます。
個人に掛かる税負担の違いによるメリット
法人の場合には、所得税と法人税はどちらも額が大きいほど課税の比率が上がっていくため所得税と法人税に稼ぎを分散させることにより税金を減らすことができます。
なぜなら、事業主は役員報酬を所得税として処理できるからです。
しかも、法人から給与として得る場合は所得に応じた給与所得者控除を使った所得税の節税が可能です。
退職金は通常の給与所得よりもさらに税金を安く抑えられるためこちらも有効活用したいです。
経費として認められる範囲が増えることのメリット
法人は、個人事業主と比較して、経費として認められる範囲が増えます。
特に重要なのが生命保険と出張費用です。
生命保険は個人の場合は給与所得者控除の範囲でしたが法人の場合は全て損金になります。
出張についても経費で賄えるし出張の日当も支給することが可能となります。
また、借金の利息も損金として処理することが可能となります。
※元本は借りた時に益金とならない代わりに、返すときも損金になりません。
赤字の繰り越しを節税対策に使えるメリット
法人は赤字の繰り越し金を9年間蓄積することが認められています。個人事業主の場合には、青色申告をしても繰り越し期間が3年になります。
また、法人の場合には、資本金1000万円未満の法人の場合には、会社設立後2事業年度は消費税が免税となるなどのメリットもあります。
法人では、大きめの設備投資をすることで赤字を造り、減価償却費を数年に分けることにより、収益を赤字とすることにより、税金の支払い額を抑えることも可能です。
親族への贈与を節税できるメリット
個人事業主の場合は、財産を贈与すると贈与税が掛かります。
法人では、親族を役員とすることにより、役員報酬を支払うことが可能となります。
役員報酬は所得税となるため、一般には、贈与税よりも税金が安くなります。
不動産経営を法人化するメリット
今まで述べてきた様に、個人事業主を法人化することのメリットはかなりあります。
不動産事業も法人化することにより、大きな節税をすることが可能です。
不動産経営を法人化するメリットは、不動産から得られる毎月の定期収益を法人の利益として法人税で処理できるからです。
法人税は年間所得900万円以上だと所得税よりも税金が低いので収益が大きいほど節税の価値があります。
不動産経営を法人化するメリットは以下の様なものがあります。
個人所有の不動産で賃貸経営を実施している場合には、土地を法人に貸出して、建物を法人に売却することにより、賃貸経営を個人から法人に移転することが可能です。
個人からすれば、土地はそのまま残り、家の売却費用と、土地の借地代が毎月収益として得る事が可能です。
法人からすれば、会社の利益を減らすことが可能であり、法人税の支払いが安くなります。
また、安定した収益を得ることが可能となるため、会社の安定性が増します。
このとき、まとまった資金が法人になければ長期債権としてゆっくりお金を移動させることができます。
この様にすることにより、資産を個人と法人に分散することができ、税金の節税にも繋がります。
個人事業を法人にするデメリット
個人事業を法人化することは良いことばかりに見えますが、もちろん、デメリットも存在しています。
以下に説明します。
法の理解や定款づくりをするデメリット
個人事業主の場合には、1人の中で全ての資金の入りと出が全て管理されていたため、特に決まったルールが無くても事業を実施することが可能でした。
しかしながら、個人と法人は別人格であるため、確定申告も個人と法人では別々に行わなければなりません。
このため、法人の場合には、会社を運営するための明確なルールが必要になります。
株式会社の場合は特に会社法による制限が厳しく定められているので、法的な処理や税の処理を独力でやること自体が難しくなります。
同じ法人でも、合同会社の場合には定款に裁量を利かせられるので、株式会社よりは楽ですが、会社法はしっかり守る必要があります。
個人事業主には、法人法は適用されません。
このため、法人は決算書も個人事業主の時に比べて複雑になり、定款の作成もしないといけないので、法律のプロに頼らざる終えません。
定款の作成や決算書の作成等を税理士に依頼すると、法人として複雑になった分、税理士報酬も高額になってしまいます。
毎年着実に大きな利益を上げている会社であれば問題ないのですが、個人事業主の場合と法人の場合で利益に大きな差が出ない場合には個人事業主のままで事業を継続した方が良い場合も多く存在します。
税理士報酬を気にしないほどの収益を得ている場合のみ、法人化を検討されるのが正解です。
複雑な登記手続きと費用が発生するデメリット
会社設立のためには登記が必要ですが、個人事業主のように書類を1枚出して終わりという訳ではありません。
もっと難しい手続きがあります。登記費用も最低でも20万円以上かかってしまいます。
お金の管理を個人と法人で切り分けるデメリット
法人の場合だけでなく、個人事業主の場合にも言えることですが、事業のお金と個人のお金はキチンと切り分ける必要があります。
個人事業主の場合には、事業主借と事業の費用が正しく整合性を取れていれば良いのですが、法人の場合には、全く別の財布で管理することになります。
法人と個人は別人格なので、法人の立場で利用したお金と個人の立場で利用したお金は、預金通帳や財布、名前、印鑑等全て別になります。
これらを混同してしまうと、正しい決算が行えなくなってしまうので十分な注意が必要です。
個人で突発的なお金が必要だからと会社のお金を使用してしまうと横領であり、完全に法律に違反してしまいます。
会社のお金は、個人のお金では無いのです。例えあなたが一人社長だったとしても、会社法として許されない行為なのです。」
まとめ
個人事業主が法人化することはメリットが多く存在しますが、デメリットも存在します。
法人化するデメリットで最も気をつけないといけないことは、個人事業主と比較して法人だと詳細な入手金を常に把握しておく必要があるということです。
入手金を常に把握するのは簡単なことではありません。
細かな会計処理を把握して会社としての利益を着実に上げていく必要があるのです。
このため、個人事業主として今まで1人でやっていた方であっても管理面に手が割かれてしまい、思い通りに経営をしていくことが難しくなります。
この様なときは、費用は掛かりますが有能な税理士の力を借りるのが得策です。
以下の記事では、事業承継に詳しい税理士を紹介していますので、是非参考にして下さい。
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