相続時に負債がある時、遺産分割により負債を1人に集中させる節税対策

その他の対策
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相続時に負債がある時、遺産分割協議で負債を1人に集中させると節税対策となることがあります。

相続した時、相続財産がマイナスの財産となる場合には、相続税を支払う必要がありません。

この様な話を聞くと、遺産相続時に負の遺産部分を1人に集中すれば、全体の相続税が減るのではないかと考える人がいるかと思います。

この考えはある程度正しいです。

 

今回は、遺産分割割合を調整することにより、負の遺産がどの様に変わるのかについて考えてみたいと思います。是非お付き合い下さい。

 

 

 

 

遺産分割による相続税と負債の関係

相続税は、遺産総額に生前贈与加算を足してから非課税分や基礎控除額引いて課税遺産総額を決定して、法定相続割合に従って法定相続人の課税遺産額を決定した上で、各人毎に相続税を計算します。
その相続税を足し合わせた相続税を「相続税の総額」と言います。

この「相続税の総額」は、未だ各人の控除や遺産分割協議に従って遺産分割をしていない計算上で発生した相続税の総額となります。

この「相続税の総額」を使用して幾つかのケースでの相続税を計算してみます。

 

例1:子供3人の場合

プラスの相続財産が2億円で、負債が1億円ある相続財産を、子供3人(仮に子供Aと子供B、子供Cとします。)の相続人が相続した場合を考えてみます。

 

①法定相続割合での「相続税の総額」を計算

この場合は、相続人が3人なので、基礎控除が4,800万円(3,000万円+600万円x3人)です。

課税遺産総額は、「(2億円ー1億円)ー4,800万円」となり5,200万円となります。

法定相続分は、子供A 1/3、子供B 1/3、子供C 1/3となります。

各人の課税遺産額は、子供A1,733万円、子供B1,733万円、子供C1,733万円

各人の相続税は、子供A210万円、子供B210万円、子供C210万円

相続税の総額は、630万円となります。

少し分かりづらいので以下の表にまとめます。

単位[万円] 全体 子供A 子供B 子供C
遺産分割割合 100% 33% 33% 33%
プラスの遺産額 20,000 6,667 6,667 6,667
マイナスの遺産額 10,000 3,333 3,333 3,333
遺産額 10,000 3,334 3,334 3,334
課税遺産額 5,800 1,733 1,733 1,733
相続税額 630 210 210 210
納税額 630 210 210 210

上記の表をベースに、相続割合を変更して相続税がどの様になるかをみてみます。

 

②子供Cがマイナスの財産を全て受け取った場合

配偶者がマイナスの遺産額だけを全て受け取った場合は以下の様になります。

単位[万円] 全体 子供A 子供B 子供C
プラスの遺産額 20,000 6,667 6,667 6,667
マイナスの遺産額 10,000 0 0 10,000
遺産額 10,000 6,667 6,667 -3,333
相続税額 630 315 315 0
納税額 630 315 315 0

 

結論

負債について1人が背負う様になっても、「相続税の総額」は変わらないということです。
また、「納税額の合計」の変わっていません。

このため、相続人の間で話し合いが成立すれば、遺産分割協議で1人が負債を背負う様にしても何も問題は発生しません。

但し、②のケースでは、子供Cについては遺留分(今回の場合では遺産額の1/6)を取得できていないので、子供Cが拒否すればこの案を実現することはできません。

 

 

 

例2:配偶者が居る場合

プラスの相続財産が2億円で、負債が1億円ある相続財産を、配偶者と子供2人(仮に子供Aと子供Bとします。)の相続人が相続した場合を考えてみます。

 

法定相続割合での「相続税の総額」を計算

この場合は、相続人が3人なので、基礎控除が4,800万円(3,000万円+600万円x3人)です。

課税遺産総額は、「(2億円ー1億円)ー4,800万円」となり5,200万円となります。

法定相続分は、配偶者が1/2、子供A 1/4、子供B 1/4となります。

各人の課税遺産額は、配偶者2,600万円、子供A1,300万円、子供B1,300万円

各人の相続税は、配偶者340万円、子供A145万円、子供B145万円

相続税の総額は、630万円となります。

少し分かりづらいので以下の表にまとめます。

単位[万円] 全体 配偶者 子供A 子供B
遺産分割割合 100% 50% 25% 25%
プラスの遺産額 20,000 10,000 5,000 5,000
マイナスの遺産額 10,000 5,000 2,500 2,500
遺産額 10,000 5,000 2,500 2,500
課税遺産額 5,200 2,600 1,300 1,300
相続税額 630 340 145 145

上記の表をベースに、相続割合を変更して相続税がどの様になるかをみてみます。

 

①法定相続割合で配偶者の税額軽減を加味

上記の計算結果に「配偶者の税額軽減(1億6,000万円の控除)」を加味すると実際の納税額が以下の様になります。

単位[万円] 全体 配偶者 子供A 子供B
プラスの遺産額 20,000 10,000 5,000 5,000
マイナスの遺産額 10,000 5,000 2,500 2,500
遺産額 10,000 5,000 2,500 2,500
相続税額 630 340 145 145
納税額 290 145 145

次は、遺産の受取額を変更していきます。

 

②配偶者がマイナスの財産を全て受け取った場合

配偶者がマイナスの遺産額だけを全て受け取った場合は以下の様になります。

単位[万円] 全体 配偶者 子供A 子供B
プラスの遺産額 20,000 10,000 5,000 5,000
マイナスの遺産額 10,000 10,000 0 0
遺産額 10,000 0 5,000 5,000
相続税額 630 0 315 315
納税額 630 315 315

配分比率を変更しても、「相続税の総額」は変わらないので、増税額は上記の様になります。

①の計算結果と比較すると、全体の納税額が2倍以上になりました。これは、「配偶者の税額軽減」の効果が無くなったためです。

次は、子供にマイナスの遺産を全て割り振ってみます。

 

③子供がマイナスの財産を全て受け取った場合

単位[万円] 全体 配偶者 子供A 子供B
プラスの遺産額 20,000 10,000 5,000 5,000
マイナスの遺産額 10,000 0 5,000 5,000
遺産額 10,000 10,000 0 0
相続税額 630 630 0 0
納税額 0 0

今度は、全体の納税額が0円となりました。②と比較すると高い節税効果ですね。

だけど、今度は、子供が遺産を受け取れないことになっています。

 

④子供Bがマイナスの財産を全て受け取った場合

単位[万円] 全体 配偶者 子供A 子供B
プラスの遺産額 20,000 10,000 5,000 5,000
マイナスの遺産額 10,000 0 0 10,000
遺産額 10,000 10,000 5,000 -5,000
相続税額 630 420 210 0
納税額 210 210 0

この場合には、「相続税の総額」は配偶者と子供Aで分けることになるため遺産額の割合で割り振られます。但し、子供Bはマイナスの遺産額であるため、相続税は0になります。

 

⑤全員が均等に遺産を受け取る様にした場合

配偶者がマイナスの遺産額だけを全て受け取った場合は以下の様になります。

単位[万円] 全体 配偶者 子供A 子供B
プラスの遺産額 20,000 13,334 3,333 3,333
マイナスの遺産額 10,000 10,000 0 0
遺産額 10,000 3,334 3,333 3,333
相続税額 630 210 210 210
納税額 630 210 210

この案は、全員が同じ遺産額を受け取る様にした案です。

このため、皆均等に財産を受け取っているので遺産分割協議においても揉め事が少なくなる可能性が高いです。

 

結論

配偶者が居る場合であっても、「相続税の総額」は変わらないです。

しかしながら、配偶者が居る場合には、「配偶者の税額軽減」を利用することにより「納税額の合計」は変化します。

単純に節税のみを考えれば、③の案が一番節税効果が高いですが、子供達は一銭も貰えないので不満が出る可能性があります。また、二次相続を考えたときには、配偶者の財産を子供達が引き継ぐ時に、大きな相続税を支払う必要が出てきます。

このため、現実的には配偶者が十分な老後が生活できる分の財産を取得して、残りは子どもたちに分け与える様にすることが一番の相続対策になります。

 

 

 

実際のマイナスの財産の扱い

今まで、相続時の負債を誰が引き受けたら良いかのシミュレーションを説明してきましたが、この章では、法律上での負債の扱いがどの様になるかを見ていきます。

法律上では、亡くなった人の負債は遺産分割の対象になりません。

ローン等をはじめとした被相続人の金銭債務は、遺産分割の対象外とされています。

そのため、相続人間での負担割合を取り決めても、それを債権者に主張することはできません。

 

被相続人が亡くなった際、銀行・消費者金融・親族・知人などに対してローン債務を負担している場合があります。

このとき、ローン債務は相続人間で「当然分割」されるため、遺産分割の対象にはなりません。

当然分割」とは、遺産分割等を経ることなく、法定相続分に従って、相続債務を共同相続人間が分割承継することを言います。

例えば、被相続人が亡くなった時点で、金融機関Xに対して1000万円のローン債務を負担していたとします。
仮に法定相続人が子A・Bの2人だけの場合、AとBは相続開始の時点で、自動的に500万円ずつのローン債務を承継します。

ローン債務の当然分割の効果は、相続開始の時点で自動的に発生します。
したがって各共同相続人は、後述する免責的債務引受または相続放棄が行われない限り、債権者が相続開始後に行う法定相続分に従った請求を拒むことはできません。

ただし、ローンの負担割合に関する合意は、合意の当事者である相続人同士の間では有効です。

よって相続人は、債権者からの請求に応じてローン債務を支払った後、合意した負担割合に従って、相続人間で適宜求償による精算を行うことになります。

被相続人のローン債務は、遺産分割の対象にならないのと同様に、遺言書によって相続方法を指定することもできません。

遺言書による相続方法の指定は、遺産分割と同じく、相続人同士の内部の問題に過ぎず、債権者とは関係がない事柄だからです。

仮に遺言書の中でローン債務の割り振りが記載されていたとしても、債権者はその内容にかかわらず、各共同相続人に対して、法定相続分に従い請求を行うことができます。

 

 

 

被相続人のローン債務は「当然分割」されるのが原則ですが、「免責的債務引受」または「相続放棄」を通じて、ローンを1人の相続人に集中させることもできます。

 

免責的債務引受」とは、旧債務者・新債務者・債権者の3者間で締結される、旧債務者の債務を新債務者が引き継ぐ内容の契約です。

相続人のうち1人を新債務者、残りの相続人を旧債務者として、債権者との間で免責的債務引受契約を締結すれば、ローン債務を1人の相続人に集中させることができます。
免責的債務引受には、債権者の同意が必要です。

 

相続放棄」とは、被相続人の資産・債務を一切承継しない旨の意思表示です。
相続放棄をした者は、当初から相続人にはならなかったものとみなされるため(民法939条)、ローン債務の当然分割の効果も遡って消滅します。

相続放棄をするには、原則として相続の開始を知った時から3カ月以内に、家庭裁判所に申述書等を提出することが必要です(民法915条1項)。

 

 

 

被相続人が住宅ローン等の債務を負担した状態で亡くなった場合、住宅ローンの相続に関しては、団体信用生命保険や抵当権との関係で特有の注意点があります。

 

団体信用生命保険」とは、住宅ローンの返済中に債務者が亡くなった場合などに、ローン残高全額に相当する保険金が支払われる保険制度です。
被相続人が住宅ローンを借り入れる際、団体信用生命保険に加入した場合、被相続人の死亡によって、住宅ローン債務全額が免責されます。この場合、住宅ローン債務は相続されず、相続人が返済を継続する必要はありません。

多くの場合、住宅ローン借入時の団体信用生命保険加入は必須とされています。

しかし、「フラット35」など一部の住宅ローン商品については、団体信用生命保険の加入が任意とされている点に注意が必要です。

 

住宅ローン債権を担保するため、住宅の土地・建物には抵当権が設定されていますので、相続人が住宅ローン債務を期限どおり支払わなかった場合は、抵当権を実行して住宅の土地・建物は競売にかけられてしまいます。

相続が発生して被相続人名義の借金を放置したら、銀行口座が凍結されてしまう可能性があります。

口座振替で設定していた光熱費の支払いやカード決済までできなくなってしまう可能性があります。

 

故人の負債を後回しにしたら、ブラックリスト入り

故人名義の借金(カード利用による支払いもいわゆる借金の一つです)を一定期間放置してしまうと、借入先(カード会社等)となる債権者は、借入れしている方の状況について調査し、死亡していることが判明すると、相続人を調査し、相続人へ請求書や督促状などといった通知が出されます。

負債の支払いを後回しにしていると、被相続人の返済義務を怠った相続人として、相続人の信用情報に影響が生じる可能性があります。

相続人へ宛てた、債権者からの通知(請求書や督促状等)を無視し続けていると、相続人自身が延滞しているものとみなされ、ブラックリストにその旨記載されてしまいます。

また、債権者からの度重なる請求があるにも関わらず放置していた場合、相続人自身の財産が法定相続分に相当する範囲で差し押さえされる可能性もあります。

 

 

 

故人の負債は、法律上は「当然分割」ということで、法定相続割合で配分されてしまいます。

それは、遺言でも覆すことはできないので、遺産分割協議により、故人のマイナスの遺産分をどの様に支払うかを決定する必要があります。

現実的には、法定相続割合で配分して支払うというのは現実的ではなく、一般的には、誰か1人が負債を支払う替りにその分のプラスの遺産を多く貰うというのが通常の流れとなります。

しかしながら、債権者と「免責的債務引受」の契約をしていなければ、債権者は遺産相続分割で決めた負債支払い者以外にも負債の請求をすることができてしまいます。

それを無視すると、差し押さえやブラックリスト入りしてしまいます。

このため、遺産分割協議の際には、「免責的債務引受」の契約も忘れずに行っていく必要があります。

なお、このような債務者との支払いや遺産分割協議で揉めた場合には、相続に強い税理士に相談する事をお勧めします。

以下の記事では、相続に詳しい税理士を紹介していますので、是非参考にして下さい。

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