相続税とは相続財産に応じて課せられる税金で、財産を相続した人がその金額に応じて納めます。
税金の中でも財産に対する比率が多く、外国と比べても日本の相続税は高いと言われています。
税金とは国や地方自治体に対して支払う負担ですが、どのくらい財産を相続した時に税金を支払わなくてはいけないのでしょうか?
今回は、財産を相続税した時の相続税の計算方法についてご説明します。
相続税評価額とは?相続財産の評価の原則
相続税は相続財産の価値に対して課税されますので、相続税を計算するためには、相続財産を評価してその価値を知る必要があります。
つまり、相続税評価額とは、相続税を計算するために財産を評価した金額のことです。
相続財産の評価は、原則、財産の相続発生時における時価により行われます。
ここでいう時価とは、客観的交換価値をいい、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に、通常成立すると認められる価額です。簡単に言えば、売れる値段ということです。
とはいえ、すべての財産について、個々に時価を算定することは、現実には極めて困難といえます。
株式など活発な市場がある財産であれば売れる値段が明らかである場合もありますが、不動産など個別性の高い財産の場合は実際に売ってみない事には売れる値段はわかりません。
そこで、相続税における財産評価は、通常国税庁から提示されている「財産評価基本通達」によりおこなわれることになっています。
財産評価基本通達とは、財産の評価額の計算方法を示したマニュアルのようなものです。
なお、借入金など財産の価額から控除すべき債務の価額は、通常金銭による表示がされているために、評価上の問題が生じることはありません。
相続税を計算するための準備
相続税を計算するためには、先ず、事前に明確にしておく内容として、相続財産の確定と、相続人の確定を行う必要があります。
以下に細かく説明します。
相続財産を調べる
相続税を計算するためには、まず相続財産(遺産)を明らかにする必要があります。
被相続人が持っている現金や家の中にあるものは当然として預金口座や証券口座、有価証券、自宅の他に持っている不動産などをくまなく調べます。
現金以外のものは相続税の計算に合わせて相続税評価額を算定します。骨董品や宝石など相続税評価額の決まりがないものは鑑定士に頼んで評価してもらいます。
相続税は遺産の金額に伴って決まる以上、どんなものもお金に換算しなくてはいけないのです。
相続財産を把握できるよう、生前から財産目録を作っておきたいところです。財産目録がない場合でも被相続人がなくなってすぐ作成できると相続が捗ります。
財産目録の作成方法については、以下の記事で説明しています。
相続財産の把握が不十分なまま遺産分割および相続税の納付をすると、新たな財産が発覚した時に無駄な手間が増えます。
ここでミスをすると後々、相続税額が違ってくるので、間違えないように計算しましょう。
以下の記事では、各相続財産の評価方法について説明していますので、参照して下さい。
法定相続人を確定し、受遺者を把握する
基礎控除には法定相続人の人数が関わります。そうでなくとも遺産分割協議には法定相続人の合意が必要なので、やはり法定相続人を探さなくてはいけません。法定相続人は被相続人の配偶者および被相続人の子です。
もし、被相続人の子がいない場合はこのように法定相続人が決まります。
- 被相続人の子が亡くなっている場合は被相続人の孫やひ孫
- 被相続人の直系卑属(子や孫)が誰もいない場合は、被相続人の直系尊属(親など)
- 被相続人の直系卑属も直系尊属もいない場合は兄弟姉妹
受遺者とは遺言によって財産を得た人で、基礎控除の計算に関わらないものの相続税の分担に関わります。遺言は相続人および受遺者全員の合意がない限り法的効力を持ちます。
「財産を取得した人」とは
なお、「財産を取得した人」は法定相続人に限りません。
遺贈によって財産の一部を受け取った第三者や相続放棄をしたが生命保険金を受け取った人も「財産を取得した人」です。
以下の記事では、どの様な方が相続人になれるのかについて詳しく説明しています。
相続税を計算する際は「養子」に注意!
相続税を計算する際に、法定相続人の数が問題となる場面があります。法定相続人に「養子」がいる場合、法定相続人に含める養子の数には次のような制限があるので注意が必要です。
被相続人に実子がいる場合 | 養子は1人まで |
被相続人に実子がいない場合 | 養子は2人まで |
ただし、以下の場合は養子であっても実子とみなされるので、養子の数の制限を受けません。
- 特別養子
- 配偶者の実子で被相続人の養子になった人
- 実子または養子がすでに死亡しているため代襲相続人となった人
- 結婚前の配偶者の特別養子で、結婚後に養子となった人
遺産分割が終わっていないとき
遺産分割が終わっていない場合は、相続人が法定相続分に基づき取得したものと判断して各相続人の課税価格を計算します。
遺産分割が終わったら再度計算し、修正申告をして納付税額の過不足を修正します。
相続税の計算
相続税の計算には、計算手順が存在します。
計算手順を守って計算しないと正しい相続税が計算できません。
以下で、相続税の計算手順及び計算方法をご説明します。
なお、計算の元となる、遺産総額の求め方は、以下の記事で説明しています。
相続税の課税対象となる課税遺産総額の計算
相続税を計算するには、以下の手順で計算します。
①遺産総額の計算
遺産総額:相続や遺贈によって取得した財産
相続時精算課税の適用を受ける贈与財産とは、 贈与を受けたときに、特別控除額及び一定の税率で贈与税を計算し、贈与者が亡くなったときに相続税で精算するものです。(「持ち戻し」の一つの方法となります。。)
相続時精算課税は次の要件に該当する場合に贈与者が異なるごとに選択することができます。
なお、一度この相続時精算課税を選択すると、その後、同じ贈与者からの贈与について「暦年課税」へ変更することはできません。
〈対象者等〉
- 1 贈与者は贈与をした年の1月1日において60歳以上の方(父母や祖父母など)
- 2 受贈者は贈与を受けた年の1月1日において18歳以上で、かつ、贈与者の直系卑属(子や孫など)である推定相続人又は孫
〈計算方法〉
「相続時精算課税」を選択した贈与者ごとに、1年間(1月1日~12月31日)に贈与を受けた財産の価額の合計額(課税価格)から特別控除額2,500万円(前年以前にこの特別控除を適用した金額がある場合は、その金額を控除した残額)を控除した残額に20%の税率を乗じて贈与税額を計算します。
注:令和5年度の税制改正により、令和6年1月1日以後に贈与により取得する財産に係る贈与税について、相続時精算課税に係る110万円の基礎控除を創設するなどの改正がされています。
②遺産額の計算
遺産額=
(遺産総額+相続時精算課税の適用を受ける財産の価額)ー債務、葬式費用、非課税財産
③正味の遺産額の計算
正味の遺産額=遺産額 + 相続開始前7年以内の暦年課税に係る贈与財産の価額
相続開始前7年以内の暦年課税に係る贈与財産の価額とは、「持ち戻し」のことです。
持ち戻しの期間は、令和6年1月1日以前に贈与を受けた場合には3年です。
令和5年の税制改正により令和6年1月1日以降に贈与を受けた場合には7年に変更されました。
また、緩和措置として相続開始前4年から7年の間の贈与は、贈与額の合計から100万円を控除して相続税の計算ができます。4年間での合計100万円を限度に控除されます。年間100万円づつではありませんので、ご注意ください。
④課税遺産総額の計算
課税遺産総額=正味の遺産額ー基礎控除額
基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数
相続税を払わなくて良い人も多い
被相続人の家族を悩ませる相続税ですが、目立った相続財産が無い場合は殆ど相続税を払わなくて良いこともあります。
そのため、相続税を支払わなくて良い家庭は多く。支払う理由が不動産にあることも珍しくありません。相続財産を基礎控除を下回る場合は相続税の申告が不要です。
※ただし、小規模宅地の特例やその他の税控除を受ける場合には、相続税の申告が必要となります。
注意事項
課税遺産総額がマイナスとなる場合には、相続税はかかりません。
相続財産が少ないケースではこの時点で課税遺産総額なし。つまり相続税ゼロが確定します。課税遺産総額が無ければ相続税の申告も不要になります。
注:被相続人に養子がいる場合、法定相続人の数に含める養子の数は、実子がいるときは1人(実子がいないときは2人)までとなります。「相続税の総額」の計算においても同じです。
注2:令和5年度の税制改正により、令和6年1月1日以後に贈与により取得する財産に係る相続税について、課税対象となる相続時精算課税の適用を受ける財産の価額は相続時精算課税に係る基礎控除額を控除した後の残額とするなどの改正がされています。
各人の課税価格の計算
各人の課税価格とは、上記で求めた「課税遺産総額」を法定相続割合で各法定相続人に振り分けた課税の対象価額です。
相続税の計算は、この「各人の課税価格」に対して税金を計算します。
各相続人の課税価格の計算方法はそれぞれが取得した財産の課税価格から財産とみなされないものの価格を差し引き、被相続人から生前に贈与された分の価額を加えて算出する方法を取ります。
計算式に表すと以下のとおりになります。
課税価格 = ( A+B ) − C − D + ( E + F )
- A:本来の相続財産
- B:みなし相続財産の価額
- C:非課税財産の価額
- D:債務および葬式費用
- E:相続時精算課税制度の適用を受ける贈与財産の価額
- F:相続開始日前3年以内の贈与財産の価額
計算した「課税価格」に1,000円未満の端数があるとき、またはその金額が1,000円未満であるときは、その端数金額またはその金額を切り捨てます。
相続税の計算
以下は、相続税の計算手順を示しています。
以下で詳細を説明します。
①課税遺産総額を法定相続割合で各人に分割して相続税を計算
課税遺産総額を法定相続分どおりに取得したものと仮定して、それに税率を適用して各法定相続人別に振り分け
まず、課税遺産総額を法定相続分に合わせて各法定相続人に割り当てます。この計算をするときは相続放棄した人も含みます。
各法定相続人の取得金額 = 課税遺産総額 × 各人の法定相続分
※「各法定相続人の取得金額」に1,000円未満の端数があるとき、またはその金額が1,000円未満であるときは、その端数金額またはその金額を切り捨てることが認められています。
法定相続分の主な例
相続人 | 法定相続分 | 遺留分 | |
子がいる場合 (第一順位) |
配偶者 | 2分の1 | 2分の1 |
子 | 2分の1 (人数分に分ける) |
||
子がいない場合 (第二順位) |
配偶者 | 3分の2 | 3分の1 |
父母 | 3分の1 (人数分に分ける) |
||
子も父母もいない場合 (第三順位) |
配偶者 | 4分の3 | |
兄弟姉妹 | 4分の1 (人数分に分ける) |
なし |
遺留分とは、一定の範囲の法定相続人に認められる最低限の遺産取得分のことで、遺言によっても侵害することはできません。
尚、相続放棄をした人についても、遺留分は認められません。
遺言で遺留分を侵害された場合、遺留分に相当するお金を請求できる
現在の民法で、遺留分権利者には、遺留分侵害があった場合、受遺者又は受贈者に対して「遺留分侵害額に相当する金銭を請求する権利」(遺留分侵害額請求権)が認められています。
各法定相続人毎の相続税額を計算します
相続税は課税遺産総額を元に以下の「相続税の速算表」を用いて計算しますが、各人毎に計算しないといけないので、課税遺産総額をこの表に当てはめないよう注意してください。
各法定相続人毎の相続税額=「各人の課税価格」x 税率 ー 控除額
相続税の速算表
相続税速算表 | ||
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000万円以下 | 10% | ー |
1,000万円超~3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
3,000万円超~5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
5,000万円超~1億円以下 | 30% | 700万円 |
1億円超~2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
2億円超~3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
3億円超~6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超~ | 55% | 7,200万円 |
各法定相続人毎の相続税額の計算例
それぞれに割り当てられた課税遺産総額を相続税速算表に当てはめます。
例えば課税遺産総額が4000万円で配偶者と子2人が法定相続人である場合、配偶者に2000万円、子にそれぞれ1000万円ずつ割り当てます。
これらを速算表に当てはめると次のようになります。
配偶者:2000万円×15%-50万円=200万円
子1 :1000万円×10%=100万円
子2 :1000万円×10%=100万円
②相続税の総額
相続税の総額 = 各法定相続人毎の相続税額の合計
※相続税の総額に100円未満の端数があるときは、その端数金額を切り捨てることが認められています。
計算した結果を足し合わせると、相続税の総額になります。よってこのケースでは以下のようになります。
相続税の総額の計算例
相続税の総額:200万円+100万円+100万円=400万円
この家庭が支払う相続税は400万円です。基礎控除を考えれば8800万円以上の遺産があったことになりますね。
一見面倒な計算ですが、課税遺産総額をそのまま速算表に当てはめるよりは安くなっています。
2割加算されるのは下記以外の人
遺産相続をした者が配偶者および一親等の血族(子および父母)以外のときは、算出税額に2割を加算します。
- 配偶者
- 父母または子ども
- 代襲相続人となった直系尊属(孫など)
なお、子供が被相続人の死亡以前に死亡しているときの孫(その子供の子)については、相続税額にその20パーセント相当額を加算する必要はありませんが、子供が被相続人の死亡以前に死亡していない場合の被相続人の養子である孫については加算する必要があります。
③相続税の総額を法定相続割合で按分
相続税の総額を、各相続人、受遺者及び相続時精算課税を適用した人、みなし相続をした人が実際に取得する「正味の遺産額」の割合に応じて按分します。
相続税の総額を、実際の相続割合に合わせて分けます。そのため誰かが遺産を100%相続した場合はその人が相続税を全て払うことになるし、遺産を相続していない人は一切の相続税を払いません。
配偶者控除や未成年者控除などを活用する場合は、相続税の按分が終わり実際に相続税申告をするタイミングで同じく申請します。小規模宅地の特例も同様です。
按分割合 = 各相続人の課税価格 ÷ 課税価格の合計額
※小数点以下2位未満の端数がある場合、その財産の取得者全員が選択した方法により、各取得者の割合の合計値が1になるようその端数を調整して、各取得者の相続税額を計算することが認められています。
つまり、相続人全員の按分割合の合計値が1.00になるように、相続人全員の合意によって、按分割合の小数点以下第2位未満の端数を調整することができるということです。
④実際に納める税額
実際に収める相続税は、各種の控除額を差し引いた金額が実際の税額になります。
各種の税額控除等は次の順序で計算します。
(注) 各相続人等の控除後の税額又は納付すべき税額が赤字の場合または「0」のときには、相続税を支払う必要はありません。
各相続人等の控除後の税額から相続時精算課税分の贈与税相当額を引いた金額が赤字の場合または「0」のときには、医療法人分税額控除額の適用はありません。
また、相続税を払い過ぎていた場合には、申請により還付を受けることができます。
各人の相続税から、各種の税額控除を差し引いて、実際に納める税額を計算します。
なお、「各種の控除」については、次章で説明します。
相続税に適用可能な「各種の控除」
相続税に適用可能な各種の控除とは、以下のようなものがあります。
-
- 配偶者控除(配偶者の税額軽減)
- 未成年者控除
- 障害者控除
- 相似相続控除
- 外国税額控除
- 暦年課税に係る贈与税額控除
- 相続時精算課税に係る贈与税額控除
- 医療法人分税額控除
配偶者控除(配偶者の税額軽減)
この制度は、財産の維持形成に対する配偶者の内助の功や今後の生活の保障などを考慮して設けられているものです。
配偶者が被相続人の財産形成に寄与したことを評価したり、被相続人の死後の生活を保障することを目的とした制度です。軽減される税額は以下の計算式で算出します。
軽減される税額=相続税の総額×(A)と(B)のうち、少ないほうの額 ÷ 課税価格の合計額(A) 課税価格の合計額×配偶者の法定相続分(1億6000万円未満のときは1億6000万円)
(B) 配偶者の課税価格
なお、配偶者控除を受けるためには、相続税の申告書の提出が必要です。
〈控除を受けるための手続〉
相続税の申告書又は更正の請求書に税額軽減(配偶者控除)の適用を受ける旨を記載し、次の書類を添付して提出する必要があります。
- 戸籍の謄本など
- 遺産分割協議書の写し又は遺言書の写し
- 相続人全員の印鑑証明書(遺産分割協議書に押印したもの)
注:遺産分割協議書に、定められた様式はありません。誰がどの遺産をどれだけ相続するかを書き出し、相続人全員が合意した旨を記載の上、実印を押印して作成します。
未成年者控除
相続人が未成年者の場合は、成人になるまでの年数×10万円が控除されます。
ただし、過去にも別の相続で未成年者控除を受けている場合は、控除額が軽減される可能性もあります。
相続人が未成年者の場合、控除される金額は以下のとおりになります。
なお、令和4年4月1日以後に発生した相続または遺贈については、成年年齢の引き下げにともない、20歳⇒18歳となります。
障害者控除
相続人が障害者の場合は、その人が85歳までの年数×10万円が、特別障害者の場合は85歳までの年数×20万円が控除されます。
ただし、この場合も過去に別の相続で障害者控除を受けていると、控除額が軽減される可能性があるので注意しましょう。
制限納税義務者にあたらない、85歳までの障害を持つ人が対象となる制度です。
特別障害者ではない場合
控除額 = その人が85歳までの年数 × 10万円(平成26年までは6万円)
特別障害者の場合
控除額 = 85歳までの年数 × 20万円(平成26年までは12万円)
相次相続控除
10年以内に2回以上相続がありいずれも相続税が課された場合、前の相続税額の一部を後の相続税額から控除できます。適用できるのは法定相続人に限ります。
相次いで遺産相続が起こった場合、相続税の支払いが多くなるのを避けるために設けられた制度です。
1回目に支払った相続税の一部が控除されます。
「相次相続控除」の詳細については、以下の記事で詳しく説明しています。
[https://inheritancetax119.com/successive-inheritance-deduction/]
外国税額控除
外国税額控除
外国にある財産を相続などで取得して外国で相続税に相当する税金を納めた場合、税金の二重課税を防ぐために一定額が控除できるようになっている制度です。
控除額は次のA・Bのどちらか少ない方です。
B:相続税の額×(海外にある財産の額÷相続人の相続財産の額)
「外国税額控除」の詳細については、以下の記事で詳しく説明しています。
暦年課税に係る贈与税額控除
相続を開始する7年以内(令和6年1月1日以前は3年以内)に贈与された贈与財産には相続税がかかります。
しかし、そうすると贈与税と相続税を二重に課税されることになるため、すでに支払い済みの贈与税は控除されます。
相続人が被相続人から相続開始前3年以内に贈与を受けた場合は、その贈与を受けた財産は相続税の課税価格に加算されますが、その財産についてすでに課税された贈与税の額は差し引かれます。
控除額= A × B / CA :その贈与を受けた年分の贈与税額
B:相続税の課税価格に加算された贈与税学の価額
C:その年分の贈与税の課税価格に算入された財産の価額の合計額
相続又は遺贈により財産を取得した者が、その相続開始前7年以内に、被相続人から暦年贈与により財産を取得したことがある場合には、その暦年贈与により取得した贈与財産の価額(その贈与財産のうち、その相続開始前3年以内に贈与により取得した財産以外の財産については、その財産の価額から100万円を控除した残額)を相続税の課税価格に加算することとされます。
なお、加算期間は令和9年1月以降、順次延長されるため、加算期間が7年となるのは、令和13年1月以降に相続が発生した場合となります。
相続時精算課税に係る贈与税額控除
相続時精算課税とは、原則として贈与年の1月1日において60歳以上の父母又は祖父母から、同日において18歳以上(令和4年3月31日以前の贈与については20歳以上)の子又は孫に対し、財産を贈与した場合において選択できる贈与税の制度です。
相続時精算課税制度における贈与税は、その選択した年以後、その年の1月1日から12月31日までの1年間にその特定贈与者から贈与を受けた財産の合計額から特別控除額(限度額:2,500万円。ただし、前年以前において既に差し引いた金額がある場合は、残額が限度額となります。)を差し引いた後の金額に一律20%の税率を乗じて税額を計算します。(一度精算課税制度を選択すると暦年贈与に戻ることはできません。)
{贈与財産の価額-基礎控除110万円-特別控除額(最大2,500万円)}×20%
相続時精算課税制度を利用して被相続人の生前に贈与税を支払っていた場合、相続時には贈与税として払った税額をそのまま控除します。
この制度の最大の特徴は、贈与と相続を一体として考えるところにあり、相続時精算課税適用財産の価額を相続税の課税価格に加算し、その相続時精算課税適用財産につき課された贈与税額は、相続税額から控除されます。
なお、控除しきれなかった金額がある場合において、その控除しきれなかった金額に相当する税額が還付されます。
相続時精算課税制度の利便性を向上させる目的で、相続時精算課税適用者が特定贈与者から贈与により取得した財産にかかるその年分の贈与税については、暦年贈与の基礎控除とは別に、課税価格から基礎控除110万円が控除できることとされます。
また、特定贈与者の死亡に係る相続税の課税価格に加算等される相続時精算課税適用財産の価額は、基礎控除110万円を控除した後の残額とされています。
さらに、相続時精算課税適用者が特定贈与者から贈与を受けた土地・建物がその後の災害によって一定の被害を受けた場合には、当該災害によって被害を受けた部分に相当する額を控除した残額をもって相続税の課税対象とすることとされています。
医療法人持分税額控除
(医療法人を経営されている方にとって関係のある税額控除です。)
医療法人の持分を相続や遺贈により取得し相続開始の時から相続税の申告期限までの間にその持分の全部又は一部を放棄した場合で、一定の要件を満たすときは放棄した持分の額に対応する部分の相続税額に相当する金額を控除することができます。
相続税についてよくあるQ&A
相続税がゼロなら相続税申告しなくて良いの?
相続税がゼロなら相続税申告が不要です。しかし、配偶者控除や未成年控除など「相続税の申告が条件となるもの」があるので基礎控除以外の控除によって相続税がゼロになる方は必ず税務署か信頼できる弁護士に問い合わせてください。
また、相続税がゼロでも贈与税が還ってくる場合があります。生前贈与が持ち戻された方は気をつけてください。
基礎控除における相続放棄をした人や受遺者の扱いは?
相続放棄をした人は基礎控除の計算に含まれます。「誰かが相続放棄をした場合」と「誰かが遺産を相続しなかったけど相続放棄しなかった場合」で差が生じるのは適当と言えませんね。
一方で受遺者は基礎控除の計算に含まれません。受遺者は法定相続人でないからです。ただ相続税を按分する上で法定相続人に比べて不利になるポイントはありません。相続税は相続した財産に応じて公平に負担します。
お墓や仏壇の評価額はどうなるの?
お墓や仏壇はそもそも非課税の相続財産です。評価額を計算してもらう必要はありません。ただし祭祀に関わる財産が常識では考えられないほど高額である場合は正味の遺産総額に含まれます。
もし、お墓の値段に制限がなければ家よりもお墓を建てた方が良い節税になってしまいます。
相続放棄したのに相続税を払うことがあるって本当?
相続放棄をした人が相続税に関わる財産を受け取るのは、死亡保険金や死亡退職金の受取人になった場合です。この場合は相続放棄をしても保険金に応じた相続税を納めなくてはいけません。逆に言えば相続放棄をしても死亡保険金や死亡退職金を受け取る権利は消えません。
理由はもちろん、みなし相続財産が受取人固有の財産だからです。
遺産分割のやり直しをした場合、相続税はどう計算する?
遺産分割をやり直す理由によります。
単に遺産分割の結果が気に入らないだけであれば各人が修正申告します。
ただし遺産分割が有効であった場合は財産の所有権が各人に属しています。
よって遺産分割をやり直すことで所得税や贈与税が生じる可能性があります。新たに相続財産が見つかった場合もその分を上乗せして修正申告するだけです。それ以外は先に同じです。
あらたな相続人の出現などにより遺産分割協議そのものが無効となった場合は財産についての権利が誰にも帰属しません。
よって初回の遺産分割と同じく相続税の計算のみを行います。相続税を申告するときは更生の請求をした上で修正申告します。
このような事態を避けるなら、安易に遺産分割協議を終わらせるより相続税の申告を延長した方が良いです。
相続していない財産まで相続税の対象になる?
公平な相続税を計算するためには実際には相続という形で移動していない財産も相続財産として計算に含みます。相続財産の計算に含まれるものといえばこのようなものがあります。
- 相続開始3年前までに相続人へ贈与された財産
- 生命保険の死亡保険金
- 死亡退職金
相続税を支払うのは誰か?
相続税を支払う対象になるのは、遺産やみなし相続財産を引き継いだ人です。相続時精算課税制度によって贈与を受けた人も相続税を支払う可能性があります。
生命保険は相続税の対象になるけど遺産分割されてしまう?
死亡保険金や死亡退職金は遺産分割の対象になりません。生命保険は税務の観点から相続財産とみなされますが、民法上は受取人固有の財産として扱われます。そのため特別受益として扱われません。
しかし、死亡保険金があまりに高額な場合は特別受益として扱われることもあります。
贈与財産に相続税が課せられたら贈与税との二重課税になるのでは?
贈与財産に相続税が課せられた場合、贈与税と相殺できます。そして持ち戻した財産についての贈与税が相続税より多い場合はその差額を還付してもらうことができます。これは相続時精算課税制度についても同様です。相続時精算課税制度は2500万円を超える財産について一律で20%の課税がされますが、この税金は相続税と相殺されます。
相続時精算課税制度によって支払った贈与税については相続開始前7年以内という制約がありません。
特別受益の持戻しは相続税計算に関わるの?
特別受益は相続税の計算に関わりません。
そのため特別受益を得た人がその分多く相続税を負担する心配はありません。特別受益の持ち戻しは税務ではなく、民法上の遺産分割を公平に行うための概念です。
特別受益に関していえば扶養義務者からの生活費や教育費の贈与はその一切が非課税です。
そもそも生前贈与や死亡保険金のルールは相続税逃れを防ぐためのものですから特別受益の問題とは異なります。
まとめ
相続税の計算はとても複雑で面倒ですので、ついつい後回しにしてしまいがちです。
しかし、生前のタイミングであっても、相続が発生した後のタイミングであっても、まずは相続税の概算額を把握することで必要な対策を検討することが可能になります。
相続税の概算額をチェックすることにより、
- 思っていたより相続税がかかりそうだから節税したい
- 納税資金が心配だ
- もっと精確に相続税額を計算してみたい
このようなご要望が出てくることもあります。
相続税はどんな場合でも発生するわけでなくある程度高額な財産に課せられます。
よって、相続する財産が少なければ財産の種類や条件に問わず相続税がゼロとなりますので安心できますが、とくに基礎控除の額に近い財産を持っている場合はシビアになります。
相続に対する対策を考慮する場合には、早めに対策を講じる必要があります。
相続の相談は相続に強い税理士に相談するのが一番です。
相続に強い税理士は以下の記事で紹介しています。
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