個人事業主の後継者が贈与税や相続税で苦しまないための方法として設けられた制度です。
今回は、個人事業主の方がお亡くなりになった時に活用可能な「個人版事業承継税制」に対する特例をご説明します。
「個人版事業承継税制」の概要
個人事業主の中には、事業の引継ぎについて考えているという方も少なくないでしょう。
中小企業の事業承継を贈与又は相続で行う場合、贈与税や相続税が重くのしかかるために、事業承継自体を断念してしまうというケースも少なくありません。
そこでこの問題に対する対策として、「事業承継税制」というものが検討され、2019年の税制改正により、個人版事業承継税制が創設されました。
個人版事業承継税制が適用されれば、2019年からの10年間に渡り、事業承継にかかわる贈与税・相続税が実質的に0円となるという大きな節税効果が発揮できます。
現状を放置すると、中小企業廃業の急増により2025年頃までの10年間で約650万人の雇用、約22兆円のGDPが失われる可能性があるという危機意識を政府が抱いていたことによります。
なお、この税制は、2019年1月1日から2028年12月31日に贈与または相続等があった場合が対象です。
適用を受けるためには、2019年1月1日から2024年3月31日までに「個人事業承継計画」を都道府県知事に提出し、確認を受けなければなりません。
個人版事業承継税制とは
個人版事業承継税制は、平成31年1月1日から令和10年12月31日までの10年間の時限措置です。
個人版事業承継税制では、その要件を満たし、「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」に基づく認定を受けると、「特定事業用資産」の継承の相続税・贈与税の納税が猶予されます。
さらに、後継者が事業を続けている間に贈与者が死亡した場合、一定の手続きを経れば猶予された贈与税・相続税が納税免除となります。
ただし、青色申告に係る事業(不動産貸付業等を除く)を行っていた事業者の後継者は、円滑化法の認定を受ける必要があります。
「個人版事業承継税制」の概要
この制度を端的に言うと、創業者(先代)が2代目に事業承継を行いそして何年か後に2代目が3代目に事業を承継させるような場合、2代目が支払うはずであった贈与税や相続税が免除される制度となります。
原則、先代一人から一事業につき、後継者一人に対して適用されますが、要件を満たす場合には同一生計親族等からの承継も認められます。
しかしながら、事業用土地などはもともと相続税の特例もあるため、適用しないという選択肢もあります。個人事業主の相続の選択の幅を広げるためにも節税政策の一策として制度の概要は理解しておく必要があります。
事業用資産とは
一般動産
一般動産とは、不動産(土地とその定着物)以外の物をいいます。
パソコンやテレビなどの電化製品、自動車、家具、事業用の機械装置、ペットや家畜などの動物、書画骨とうなどが動産にあたります。
基本的には物体として形あるものが動産となるので、著作権や特許権といった無体財産権は動産には含まれません。
また、鉄道の乗車券やコンサートのチケットなどの無記名債権は、流通のために便利であることから動産に含まれます。
ただし、冷暖房設備、昇降装置および昇降設備、電気設備、給排水設備、消火設備、浴槽設備など家屋の付属設備として評価されるものは、一般動産には含まれておりません。
一般動産の評価単位と評価方法
1)評価単位
一般動産の価額は、原則として1個または1組ごとに評価します。
しかし、家庭用、農耕用、旅館用などの動産については、その種類と数量が多く、1個または1組ごとに評価することは煩雑なものになります。
そのため、これらの一般動産で1個または1組の価格が5万円以下のものについては、それぞれ一括して一世帯、一農家、一旅館等ごとに評価することができます。
2)評価方法
原則として、売買実例価額や精通者意見価格等を参考にして評価を行います。
ただし、売買実例価額や精通者意見価格等が明らかとなっていない場合は、その動産と同種、同規格の新品の小売価額から、その動産の製造時から課税時期までの期間の償却費の合計(事業用一般動産)、または減価の額(非事業用一般動産)を引いた金額で評価します。
この時、製造時から課税時期までの期間の1年未満の端数については切り捨てし、償却費の計算で使用する耐用年数は耐用年数省令に定められた年数とし、償却方法は定率法で計算します。
一般的に、家屋にある家財については概ね5万円~50万円ぐらいの範囲で評価しているケースが多くなっています。
棚卸資産
棚卸資産とは、販売目的で仕入れたもののまだ販売されていない商品のことを言い、すなわち在庫に該当することになります。
また、例えば製造業などの場合、まだ加工されていない原材料なども棚卸資産に含まれます。
財産評価を行う際、棚卸資産も資産となります。
したがって、相続の対象となり、相続税の課税対象として資産を評価することが必要となります。
棚卸資産の評価単位と評価方法
1)評価単位
棚卸商品等(商品、原材料、半製品、仕掛品、製品、生産品その他これらに準ずる動産)は、種類及び品質等がおおむね同一のものごとに評価する。
2)評価方法
相続税法基本通達によれば棚卸資産のうち、下記の物は個別法を用いて評価額を算出することができると記載されています。
- 商品の取得から販売に至るまでの過程を通じて具体的に個品管理が行われている場合又は製品・半製品もしくは仕掛品の取得から販売もしくは消費までの過程を通じて具体的に個品管理が行われ、かつ、個別原価計算が実施されている場合において、その個品管理を行うこと又は個別原価計算を実施することに合理性があると認められるときにおけるその商品又は製品、半製品若しくは仕掛品
- その性質上専ら上記の製品又は半製品の製造等の用に供されるものとして保有されている原材料。
事業用資産の評価
なお、車、備品、工具、機械、設備などは、毎年の確定申告の際に減価償却の計算を行っているので、そこから算出された残存価額で事業用資産を評価するのが一般的となっています。
例えば商品の場合は、下記の通りに評価されています。
商品の評価額 = 販売予定価格 - 適正利潤 - 経費 - 消費税
事業用資産に該当しないもの
下記のような資産は事業用資産に該当しません。
- 棚卸資産又は雑所得の基因となる土地及び土地の上に存する権利
- 事業用資産の買換えの特例を受けるためだけの目的で、一時的に事業の用途に使ったと認められる資産
- 空閑地である土地や空き家である建物等。なお、運動場、物品置場、駐車場などとして利用している土地であっても、特別の施設を設けていないものは、この空閑地に含まれます。
「特定事業用資産」とは?
贈与の対象となる特定事業用資産とは先代事業者の事業の用に供されていた以下の資産です。
先代の事業の用に供されていた資産で、贈与又は相続等の日の属する年の前年分の青色決算申告書の「貸借対照表」に計上されていたものをいます
- 宅地等 当該宅地等の面積の合計のうち400㎡以下の部分
- 建物 当該建物の床面積の合計のうち800㎡以下の部分
- 減価償却資産(機械・器具備品・車両・船舶・構築物・無形償却資産(特許権等)・生物(乳用牛、果樹等)、その他一定の資産)
地方税法に規定する償却資産、自動車税又は軽自動車税において営業用の標準税率が適用される自動車その他これらに準ずる減価償却資産
なお、先代事業者だけでなく先代事業者と生計を一にする親族が所有する上記資産も特定事業用資産になります。
例えば、先代事業者が配偶者所有の土地の上に建物を建てて事業を行っている際のその土地などのことです。
贈与者及び受贈者の要件
贈与者の要件
次の(1)又は(2)の場合に応じそれぞれに定める者である。
a.贈与者が先代事業者である場合
- 廃業届出書を提出していること、または贈与税の申告期限までに提出する見込みであること
- 相続の開始前3年間(贈与の日の属する年、その前年及びその前々年)の所得税の確定申告書を青色申告により提出していること
b.贈与者が先代事業者以外の場合
- 贈与の直前において先代事業者と生計を一にする親族であり、「a.贈与者が先代事業者である場合」に定める者の相続の開始後に死亡した者
- 先代事業者の贈与後に特定事業用資産の贈与をしていること。
※先代事業者の贈与後、1年以内にされた贈与に限られます。
また、先代事業者の贈与前にされた先代事業者以外からの贈与には適用がありません。 - 先代事業者の相続後、1年以内に開始した相続にかかる被相続人であること
受贈者(後継者)の要件
この特例の適用を受けることができる特例事業相続人等とは、個人事業承継計画に記載された先代事業者の後継者で一定の要件を満たす者をいいます。
- 贈与の日において20歳以上であること
- 都道府県知事の「円滑化法の認定」を受けていること(贈与を受けた年の翌年1月15日までに申請を行う必要があります)
- 贈与の日まで引続き3年以上にわたり特定事業用資産にかかる事業に従事していたこと(先代事業者等が60歳未満で死亡した場合を除きます)
- 相続税・贈与税の申告期限において開業届書を提出し、青色申告の承認を受けていること
- 特定事業用にかかる事業が不動産貸付業、資産管理事業及び性風俗関連特殊営業などに該当しないこと
- 先代事業者等から相続により財産を取得した者が、特定事業用資産の土地について小規模宅地等の特例の適用を受けていないこと
「個人版事業承継税制」は、すべての特例事業用資産等を一括で贈与
特例事業相続人等が、被相続人から相続等により特定事業用資産を取得した場合には、その取得した特定事業用資産に係る課税価格に対応する相続税の全額について、その特例事業相続人等の死亡の日等までその納税を猶予して貰えます。
先代事業者は、「個人版事業承継税制」の対象となる資産(複数の事業を営んでいる場合には、事業承継する事業に係る資産)を一括して贈与する必要があります。
このため、減価償却資産(機械、建物)や土地等も全て一括で贈与しなければなりません。
贈与税の納税猶予制度の適用を受けた後に、その贈与者が亡くなった場合には、その贈与された特例事業用資産等は、相続で取得したものとみなされて、相続税の課税対象となります。(この場合には、贈与時の時価にて相続したとして相続税を計算します。)
減価償却資産であっても、相続時の時価ではなく贈与時の時価で相続税の計算することになりますので、通常の場合に比べて、相続税の負担が重くなるケースも考えられます。
相続の発生時に、都道府県知事の「円滑化法の確認」を受け、一定の要件を満たす場合には、そのみなされた特例受贈事業用資産について「個人の事業用資産についての相続税の納税猶予」の適用を受けることができます。
贈与税の申告期限は、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までとなります。
申告とともに猶予される贈与税に見合う担保を税務署に提供する必要があります。
「個人版事業承継税制」の納税猶予と免除の概要
先代が引退するまでに数年かけて引き継ぎをし、先代亡きあと後継者が事業継続していくとします。
この場合は「個人版事業承継税制」では、贈与税の納税猶予と相続税の納税猶予を組み合わせて適用することになります。もちろん、先代が亡くなった後に相続からの納税猶予、免除も可能です。
事業に必要な資産を先代から贈与された2代目は、贈与税の申告をしますが、そこに記載された贈与税が「個人版事業承継税制」により猶予(時期の先送り)されます。
そして、先代の死亡により相続が発生しますが、以下の要件を全て満たせば、贈与税の猶予期限が確定し、贈与税は免除されます。
先代に求められる主な要件としては、次のとおりです。
- 贈与の日の属する年、その前年及びその前々年の確定申告書を、青色申告書により提出していること
- その事業にかかる特定事業用資産の全てを贈与すること
- 贈与前年において、特定事業⽤資産に係る事業が資産保有型事業、資産運用型事業*、性風俗関連特殊営業に該当しないこと
- 贈与年の前年における特定事業⽤資産に係る事業の総収入額がゼロを超えていること
さらに、2代目後継者に求められる主な要件としては、次のとおりです。
- 承継計画の確認を受けた継承者であること
- 個人である中小企業者であること
- 贈与時に20歳以上(令和4年4月1日以後の贈与については18歳以上)であり、かつ、贈与の日まで引き続き3年以上、特定事業用資産に係る事業に従事していたこと
- 贈与税の申告期限において開業届を提出し、青色申告の承認を受けていること、又は受ける見込みであること
- 相続開始の直前において特定事業用資産に係る事業に従事していたこと(先代が60歳未満で死亡した場合を除く)
- 先代の営んでいたその事業に係る特定事業用資産の全てを取得していること
- 当該事業に係る取引を記録し、帳簿書類の備付けを行っていること
- 特定事業用資産に係る事業が、資産保有型事業、資産運用型事業及び性風俗関連特殊営業に該当しないこと
先代の死亡によって、2代目後継者は贈与税が免除されます。
そして、今度は先代から特定事業用資産を相続によって取得したものとされ(みなし相続)、他の相続財産とともに相続税が課税されます。
しかし、都道府県知事の確認(切替確認)により、今度は相続税の納税猶予に引き継がれます。
2代目後継者が、「贈与」の制度から「相続」の制度へと切替確認を受けるのに必要な要件は次のとおりです。
- 特定事業用資産に係る事業が、資産保有型事業、資産運用型事業、性風俗関連特殊営業に該当しないこと
- 相続が開始した年度の直前の年度において総収入金額がゼロを超えていること
- 相続開始時において、青色申告の承認を受けていることなど
以上のように、円滑な事業承継により贈与税と相続税の納税猶予制度を組み合わせて活用することで、事業用資産の引き継ぎにかかる税負担を軽減することができます。
なお、個人版事業承継税制は、相続が発生してからでも納税猶予や免税を適用できます。
相続税の場合、相続税額のうち、この制度の対象となる特定事業用資産に対する相続税が納税猶予、免除の対象となります。
この特例の適用を受ける特例事業相続人等が次に掲げる場合のいずれかに該当することとなった場合には納税猶予税額が免除されます。
- 当該特例事業相続人等が死亡した場合
- 納税猶予の適用開始から5年を経過する日の翌日以後に、当該特例事業相続人等が特例事業用資産の全てにつきの規定の適用に係る贈与をした場合
- 障害等級に該当したこと等やむを得ない事由が発生し、当該特例事業相続人等が事業を継続することができなくなった場合
また、特例事業相続人等について破産手続開始の決定があった場合などに該当することとなったときには、一定の納税猶予税額が税務署長の通知により免除されます。
民事再生計画の認可決定等があった場合には、その時点における特例事業用資産の価額に基づき納税猶予税額を再計算することとし、差額については免除されます。
なお、2代目後継者が、「相続」により「特定事業用資産」を取得したものとされる「みなし相続」においては、令和10年12月31日を過ぎていても適用は可能です。
以上のように、円滑な事業承継により贈与税と相続税の納税猶予制度を組み合わせて活用することで、事業用資産の引き継ぎにかかる税負担を軽減することができます。
「個人版事業承継税制」の事業要件
適用要件に、「事業が、資産保有型事業、資産運用型事業、性風俗関連特殊営業に該当しないこと」とあります。
「性風俗関連特殊営業に該当しないこと」は理解できるかと思いますので、「資産保有型事業」と「資産運用型事業」について以下に説明します。
資産保有型事業とは
特定個人事業資産の帳簿価額の合計額(+X) | ≧ 70% |
特定事業用資産に係る事業所得の貸借対照表に計上されている資産の帳簿価額の合計額(+X) |
事業所得の計算上、必要経費に入れなかった親族や使用人等への支払いなど
資産運用型事業とは
資産運用型事業とは次の割合が75%以上となる事業をいいます。
特定個人事業資産の運用収入 | ≧ 75% |
特定事業用資産に係る事業所得の売上高 |
つまり、事業所得の資産の大半が有価証券や絵画・骨董、現預金であったり、資産運用であったりした場合には制度の対象とはならないということです。
「個人版事業承継税制」を受ける前までにしなければならないこと
相続においては、相続税の申告書の提出期限までに、共同相続人又は包括受遺者によってまだ分割されていない特定事業用資産については、この特例の適用を受けることができません
個人事業承継計画書の作成
「個人事業承継計画」とは、認定経営革新等支援機関の指導及び助言を受けた後継者が作成した計画であって、先代事業者の後継者、承継時までの経営見通し等が記載されたものをいいます。
受贈者は先代事業者の事業を確実に承継するための具体的な計画を記載した「個人事業承継計画」を策定し、税理士事務所などの認定経営革新等支援機関の所見を記載のうえ、令和6年3月31日までで贈与を受ける前に、都道府県知事に提出して、その確認を受けます。
この特例の適用を受けるためには、令和6年3月31日までの間に個人事業承継計画を都道府県に提出し、中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(以下「円滑化法」という。)の認定を受ける必要があります。
知事の認定の申請にあたり承継計画の提出が必要で、原則として贈与の実行前に策定します。事業承継の予定時期や経営見通し、承継後の事業計画を記載した上、その記載内容について「認定経営革新等支援機関」による所見を記載してもらいます。
なお、先代事業者の死亡以後に個人事業承継計画を作成することも可能です。
都道府県知事の確認
適用を受けるためには、令和6年3月末までに個人事業承継計画書を都道府県知事に提出し、確認を受けなければなりません。
事業承継と認定申請
特定事業用資産の贈与を受けたのち、個人事業承継計画の認定申請をします。知事の認定書を取得しておきます。
相続の場合には、個人事業承継計画の認定申請をします。相続開始後8か月以内にその申請を行う必要があります。知事の認定書を取得しておきます。
贈与税(相続税)の申告、担保提供
贈与税については、贈与のあった日の翌年の3月15日までに申告し、知事の認定書の写し等を添付します。さらに、納税が猶予される贈与税等に見合った担保を税務署に提供しなければなりません。
相続の場合には、相続税の申告期限までに、当制度の適用を受ける旨を記載した相続税の申告書及び一定の書類を税務署へ提出します。また、猶予される相続税等に見合った担保を税務署に提供しなければなりません。
継続届出書の提出
贈与税(相続税)の申告期限の翌日から3年ごとに税務署に「継続届出書」を提出する必要があります。
税猶予の免除申請、免除届を提出
先代の死亡後は、贈与税の免除のためには税務署に免除申請、免除届を提出します。
相続の場合には、2代目後継者の死亡等により相続税等の免除のためには税務署に免除申請、免除届を提出します。
「個人版事業承継税制」の納税猶予の打ち切り
納税猶予税額に相当する相続税の全部につき納税の猶予に係る期限が確定するまでの間において、この特例の適用を受ける特例事業相続人等が特例事業用資産の全部又は一部を事業の用に供しなくなった場合には、当該事業の用に供しなくなった日から2ヶ月以内に猶予された金額、及び、利子税を納税しなければなりません。
ただし、次の場合には納税猶予は継続されます。
- 特例受贈事業用資産を陳腐化等の事由により廃棄した場合において、税務署にその旨の書類等を提出したとき
- 特例受贈事業用資産を譲渡した場合において、その譲渡があった日から1年以内にその対価により新たな事業用資産を取得する見込みであることにつき税務署長の承認を受けたとき(取得に充てられた対価に相当する部分に限ります。)
- 特定申告期限の翌日から5年を経過する日後の会社の設立に伴う現物出資により全ての特例受贈事業用資産を移転した場合において、その移転につき税務署長の承認を受けたとき
なお、災害等により申告期限の延長がされた場合には、その延長後の申告期限となります。
事業の用に供されなくなった部分以外の部分に対応する贈与税については、引き続き納税が猶予されます。
利子税の納付
この特例の適用を受けた特例事業相続人等は、納税猶予税額の全部又は一部を納付する場合には、納付する税額を基礎とし、相続税の申告書の提出期限の翌日から納税猶予の期限までの期間に応じ、年3.6パーセントの割合を乗じて計算した金額に相当する利子税を納付しなければなりません。
事業を廃止した場合
事業を廃止した場合、基本的には納税が必要ですが、やむを得ない理由がある場合や破産手続開始の決定があった場合は除外されます。
対象となった資産を売却した場合
特例事業用資産等を事業の用に供さなくなった場合、原則として、その供さなくなった部分に対応する税額を納税する必要があります。
ただし、陳腐化等の理由で廃棄した場合で税務署長の承認を得たときは、その廃棄した部分も個人版事業承継税制の継続適用を受けることができます。
また、特例事業用資産等の買い替えの場合は、購入対価が売却時の金額を上回ったとき、言い換えると、売却によって手に入ったお金が手元に残らなかったときには納税の必要はありません。
逆に、売却金額が購入対価を上回ったとき、言い換えると、売却によって手に入ったお金が手元に残ったときには、その上回った部分の金額について、納税する必要があります。
買換え特例
特例事業用資産が事業の用に供されなくなった事由が特例事業用資産の譲渡である場合において、当該譲渡の日から1年以内に当該譲渡の対価をもって新たな事業用資産を取得することについて税務署長の承認を受けたときには、納税猶予税額が打ち切られることなく、新たに取得した事業用資産について納税猶予の適用を受けることができます。
事業を法人化した場合の措置
特例事業用資産が事業の用に供されなくなった事由が納税猶予の適用開始から5年を経過する日の翌日以後の会社設立に伴う特例事業用資産の現物出資である場合において、当該現物出資について税務署長の承認を受けたときには、納税猶予税額が打ち切られることなく、当該現物出資に伴い取得した設立会社の株式等について納税猶予の適用を受けることができます。
「個人版事業承継税制」と他の制度との関係
個人版事業承継税制は、相続時精算課税、及び、小規模宅地等の特例との関係について以下に説明します。
相続時精算課税
相続時精算課税は、生前贈与時に贈与財産に対する軽減された贈与税を支払います。そして相続が発生したときに、その贈与財産と相続財産を合計した価額で相続税を計算し、既に支払った贈与税を精算する制度です。
この制度には2,500万円の特別控除があり、同一の直系尊属(父母や祖父母)からの贈与において限度額に達するまで何回でも控除することができます。
個人版事業承継税制において、贈与税がある場合に相続時精算課税を適用することも可能です。
例えば、先代から相続時精算課税を適用して事業用資産の贈与があった場合には、相続時精算課税で計算した贈与税額が納税猶予の対象となります。
この相続時精算課税制度は、令和6年1月1日より、暦年贈与同様に年間110万円までは非課税ということになるため、暦年贈与より使い勝手が良くなります。
この制度を併用して利用することにより、万が一途中で事業承継が頓挫した場合でも納付すべき贈与税額が少なくなり、相続税を低く抑えることが可能です。
小規模宅地等の特例
相続税における小規模宅地等の特例は、土地における相続税の減額措置で、「特定事業用宅地等」の特例を活用すると土地の評価額を最大80%削減することが可能です。
小規模宅地等の特例と個人版事業承継税制の比較は次のとおりです。
小規模宅地等の特例 | 個人版事業承継税制 | |
適用可能な税 | 相続税 | 贈与税・相続税 |
適用可能な資産 | 宅地 | 宅地、建物、減価償却資産 |
税額への影響 | 評価額の50~80%減 | 税額猶予及び免除 |
影響をうける者 | 他の相続人の納税額も減額 | 影響を受けるのは後継者のみ |
注意点 | ー | 小規模宅地等の特例で、「特定事業用宅地等」との併用は不可 |
個人経営の開業医や士業の場合で、相続人が世襲するケースでは個人版事業承継税制は威力を発揮します。
しかし、相続人が複数いる場合や3代目後継者を考えない場合などはどの制度にするかは慎重に判断する必要があります。
個人版事業承継税制は後継者だけが恩恵を受けられますが、小規模宅地等の特例は後継者以外の相続人の相続税も安くすることができます。
このため、後継者以外の相続人の同意も得た上で、個人版事業承継税制の適用を受けることが望ましいでしょう。
後継者のみならず、他の相続人も含めてメリット・デメリット等を理解し、他の事業承継手法と比較検討して、意思決定することが必要です。
まとめ
個人版事業承継税制の適用する上で特に気を付ける必要があるのは、一定の要件を満たさなくなった時に、猶予されていた税金と利子税を支払わなければならないことです。
一旦、個人版事業承継税制を選択すると、途中で事業を廃止したり、青色申告をやめたり、継続届出を出し忘れたりした場合に、猶予されていた税金を支払うこととなります。
個人版事業承継税制は一定の事業者にとっては大きなメリットがありますが、非常に複雑で難しいです。
また、税制の適用期間が長いため、長期的な計画を立てて利用するか、しないかを決定する必要があります。
これらの相談については、相続に詳しい専門家にご相談頂ければと思います。
以下の記事では、相続に詳しい税理士をご紹介していますので参考にして頂ければと思います。
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