相続税が課税される財産には、現金や不動産だけでなくありとあらゆるものが含まれます。
絵画や美術品も相続税の課税対象であり、売買実例価格や専門家による鑑定価格から相続税を計算します。
文化的価値の高い美術品は、人類の宝物とはいえ、所有するために高額の相続税を支払わなければなりません。
世界的価値のある美術品にも金銭と同様の相続税を課税し納税を求めると、価値ある美術品が、行方不明になったり、海外流出してしまったりと、次世代に引き継がれないことが懸念されます。
このため、重要文化財やそれに類する美術品で美術館に寄託しているものについては、相続税の納税が一部猶予される制度が存在します。
今回は、「美術品に対する相続税の納税猶予制度」についてその概要をお伝えします。
「特定の美術品に係る相続税の納税猶予制度」とは
美術品の中でも文化財に指定されているものには、美術館などが自ら所蔵するもののほか、個人が所有するものもあります。
特定の美術品に係る相続税の納税猶予制度は、美術品の保存・活用や次世代への確実な継承のために、個人が所有する美術品について美術館へ寄託することを促しています。
この制度の対象となる「特定美術品」とは、認定保存活用啓確認に記載された次に掲げるものをいいます。
- 重要文化財として指定された絵画、彫刻、工芸品その他の有形の文化的所産である動産
- 登録有形文化財(建物を除きます。)のうち世界文化の見地から歴史上、芸術上又は学術上特に優れた価値を有するもの
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適用開始時期
この特例は、平成31年4月1日以降に相続又は遺贈により取得する特定美術品に係る相続税について適用されます。
美術品の評価額の80%にあたる相続税を猶予
「特定の美術品に係る相続税の納税猶予制度」では、美術館などに美術品を寄託していた人が死亡したとき、一定の条件のもとで美術品の評価額のうち80%の額に相当する相続税の納税が猶予されます。
相続開始前に、被相続人が、特定美術品について、「寄託先美術館の設置者と寄託契約を締結し寄託していること」及び「文化財保護法の規定に基づき保存活用計画に係る文化庁長官の認定を受けていること」が条件になります。
納税猶予の対象となる美術品
納税猶予の対象となる美術品は、重要文化財に指定された美術工芸品または登録有形文化財(建造物は除く)であって世界文化の見地から歴史上、芸術上、学術上特に優れた価値があるものとされています。
美術品を寄託する美術館
美術品を寄託する美術館は、博物館法に規定する博物館または博物館に相当する施設として指定された施設のうち、美術品の公開・保管を行うものとされています。
この制度で納税猶予の適用を受けるには、美術館と美術品の長期寄託契約を締結し、文化財保護法に規定する保存活用計画について文化庁長官の認定を受けることが求められます。
また、美術品を相続した人は、その長期寄託契約と保存活用計画に基づいて寄託を継続しなければなりません。
その他の手続き
この制度で納税猶予の適用を受けるには、担保を提供する必要があります。
また、美術品を相続した人は、3年ごとに継続届出書と寄託先の美術館が発行する証明書を税務署に提出しなければなりません。
猶予された相続税の計算方法
猶予される税額は美術品の評価額の80%の部分に対する税額です。具体的には次のような方法で計算します。
- 納税猶予制度を適用しないものとして、通常どおり相続税の税額を計算します。
- 美術品を相続した人以外の相続分は不変とした上で、美術品を相続した人について、通常の価格でその美術品のみを相続したものとして相続税の税額を計算します。
- 美術品を相続した人以外の相続分は不変とした上で、美術品を相続した人について、通常の価格の20%の額でその美術品のみを相続したものとして相続税の税額を計算します。
猶予される税額は、2で求められる税額から3で求められる税額を差し引いた額です。
美術品を相続した人が納付する税額は、1で求められる税額から猶予される税額を差し引いた額となります。
猶予された相続税の免除と納税猶予の終了
納税が猶予された税額は、相続人の死亡など一定の場合に納税が免除されます。
また、美術品を譲渡した場合などは納税の猶予が終了し、猶予された税額を納めなければなりません。
猶予された税の免除
次の場合には、免除届出書及び一定の書類を提出することにより、納税猶予されている相続税の納付が免除されます。
- 相続人が死亡した場合。
- 寄託先美術館にその美術品を寄贈した場合。
- 自然災害により美術品が滅失した場合。
納税猶予の終了
次の場合には納税の猶予が終了し、猶予された税額と利子税を納めなければなりません。
利子税は相続税の申告期限からの期間に応じて計算します。
- 美術品を譲渡した場合(寄託先美術館への贈与を除きます)
- 美術品が滅失した場合、または美術品を紛失した場合
- 長期寄託契約が終了した場合
- 認定保存活用計画の認定が取り消された場合
- 認定保存活用計画の計画期間満了後4か月以内に新たな認定を受けていない場合
- 重要文化財の指定が解除又は登録有形文化財の登録が抹消された場合
- 寄託先の美術館が廃止された場合
これらの事実があった場合は、文部科学大臣または文化庁長官から税務署に通知されることになっています。
美術品の納税猶予適用には迅速な手続きが必要
相続税の納税猶予は、国が必要と判断した場合に、一定の条件を満たせば、一定期間の納税を猶予するというものです。
この様な制度は、美術品以外にも、農地や非上場株式などについても制定されています。
納税猶予の適用を受けるためには通常の相続税申告よりはるかに手続きが多く、煩雑になります。
特に美術品の場合は、美術館との長期寄託契約や保存活用計画に対する文化庁長官の認定が必要であり、その手続き自体にそれなりの時間や手間がかかります。
納税猶予の様な特殊な税制を利用する場合には、相続税に詳しい税理士に相談することをお勧めします。
なお、以下の記事では、相続に詳しい税理士を紹介していますので、参考にして下さい。
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