相続財産をできるだけ多く子ども達に残したいという思いから、不動産投資を実施される方も少なくありません。
しかしながら、その不動産投資は正しいのでしょうか?
遊休地(使わない土地)がある場合に、
- 遊ばせておくのは勿体ないので駐車場経営
- 毎月の定期的な収入を期待してアパート経営
- 今後の値上がりを期待してマンション投資
どの様な投資をするにしても、いくら位の投資をすれば、毎月いくらの収入が入り、何年で投資資金を回収できるのか計算して投資しているものです。
しかしながら、その投資本当に有効に投資できていますか?
今回は、不動産投資を考えたときの投資の評価指標をご説明します。
不動産投資を評価するための指標
投資とは、、お金を増やす手段です。
その投資が成功するか失敗するかについては、以下の3つの要素で決まります。
- 投資期間の長さ
- 投資の額
- 利回り
つまり
投資=時間x規模x利益率
と、いうことができます。
利益率は、「利益÷売上 」で示すことができます。
例えば、6,000万円の土地を8,000円で売った場合には、利益が(8,000万円-6,000万円)=2,000万円で利益率は2,000万円/8,000万円=25%となります。
規模とは、利益率が25%の1億円の土地を売った場合には、利益が2,500万円となり、先程の例と比較して500万円の差が出てしまいます。
更に、時間については、1億円の建物を今売ったら1億円ですが、10年後に売却すると6、000万円でしか売れないという様な場合です。建物は年々老朽化するので、年が建つ程値段が安くなります。
今回のケースでは、毎年5%づつ安くなるとして計算した結果が6,000万円ということです。
つまり、この3つの要素を抑えることにより、投資による利益が出るかどうかを判定することができるのです。
投資判定のIRRの特徴
この3つの要素を使用して、投資の良し悪しを測定する方法に、IRR法(内部収益率)というものがあります。
IRR(内部収益率)とは、投資資金をどれくらいの期間で回収できるかを考慮し、投資の効率性を測る指標です。
最終的に同じ金額を回収できる投資でも、短い期間で利益を得られるほどIRRは高くなります。
IRRは、投資において重要となる以下の3つ数字をすべて考慮します。
- 【開始時】初期投資額
- 【運用時】保有期間中の収益(インカムゲイン)
- 【売却時】売却価格
そのため、売却までを含めて、投資期間全体を通した収益性を現在価値の基準で算出し、最終的な投資の利回りを確認することが可能です。
また、IRRは見込まれる収益と投資額のみで算出できるため、客観的指標として利用できる点もメリットです。
ただし、IRRには、「規模」の要素が組み込まれていないという問題点もあります
具体的には、以下の章で詳しく説明します。
不動産投資におけるIRRの意味
不動産投資において、収益性の高い物件に見られる主な特徴としては、以下の項目が挙げられます。
- 早期にプラスのキャッシュフローを得られる物件
- 融資を受けやすく自己資金が少なくて済む物件
- 資産価値が下がりにくく、高値で売却できる物件
IRRは、毎年得られる金額(キャッシュフロー)が変動しがちな不動産投資などで、特に重要となる指標です。
物件購入時に融資を受けることで、自己資金を抑えることが可能です。
自己資金の投資額を抑えられると資金回収が早くなり、早期にキャッシュフローを得られる状態となるため、結果としてIRRが高くなります。
例えば、
- 築年数の古い木造アパートなどで耐用年数を過ぎている場合、初期の数年間に減価償却を大きく確保できる可能性が高く、税金還付によりキャッシュフローがプラスになりやすいという特徴があります。
- 資産価値が下がりにくい物件は、売却額が高いためにIRRも高い傾向があります。
保有期間中の毎年のキャッシュフローが良くても、最終的な売却価格が低いとIRRは下がりやすいでしょう。 - 駅近など利便性が高い物件や首都圏のように人口が減りにくいエリア、安定した人気のある地域の物件は価値が下がりにくい傾向があります。
不動産投資におけるIRRの目安は10%以上といわれていますが、物件ごとに購入額や築年数、立地など多くの変動要因を考慮する必要があります。
早期にプラスのキャッシュフローを得られれば、再投資することでさらに資金を増やすことができるため、より優れた投資であると判断できます。
不動産投資でのIRRの見方
IRRが保有期間中のキャッシュフローの変動を考慮して収益率を計算できる点が重要です。
この特徴により、IRRは不動産投資などの毎年キャッシュフローが変動するような投資案件を評価するのに適しています。
不動産投資では、保有期間中の収支は常に変動します。
- 空室率の変化や家賃の上昇・下落によって、賃料収入が変動します。
- 大規模修繕によって多額の出費が発生する年もあります。
このような収支の変動を加味して、投資期間を通しての収益率を算出できるのが、IRRの最大のメリットです。
「利回り」とIRRの違い
不動産投資などで最も一般的な指標である「利回り」とIRRの違いは何でしょうか?
利回りには、表面利回りと実質利回りがあります。
「表面利回り」は、物件価格に対してどの程度の家賃収入が得られるかという表面的な収益性を表す数値です。 維持管理費など、保有にかかるコストを計算に入れていません。
不動産情報サイトやなどで表示している「利回り」は、ほとんど表面利回りが表記されています。
「実質利回り(NOI利回り)」は、購入価格と賃料収入に加えて購入時の諸費用や保有期間中の諸経費・税金・ローン返済なども加味するので、表面利回りよりも正確に収支を予測できます。
しかしながら、利回りでは、保有期間中のキャッシュフローの変化が考慮されていません。
IRRは、単純な利回り計算だけではわからない、お金の「時間的価値」まで加味して優れた投資対象を見つけることができます。
不動産投資のように期間中のキャッシュフローが変化する投資案件を検討する際には、ぜひ活用したい指標です。
債務とIRRの関係
不動産投資では一般的に、自己資金をどれだけ効率的に運用できるかをIRRで判断します。
ただし、借り入れをして自己資金を減らした場合、IRRは高まります。
特にフルローンに近くなるほど、IRRは上がる傾向が見られます。
このため、IRRが高い物件ほど、ハイリスクな物件である可能性もあります。
このため、自己資金を効率的に運用できるのと同時に、投資全体としての収益率を把握した上で判断する必要があります。
なお、IRRには「エクイティIRR」と「プロジェクトIRR」という2種類の方法がありますが、不動産投資で一般的に用いられるのは、エクイティIRRです。
- エクイティIRR:自己資金のみを初期投資として計算したIRR
- プロジェクトIRR:投資総額(借入金+自己資金)を初期投資として計算したIRR
不動産投資におけるIRRの欠点
IRRは投資資金を回収するまでの期間を考慮することで、もっとも収益率の高い投資案件を見極めることができる、とても便利な指標です。
しかしながら、不動産投資を含む投資全般においては、最大の収益を獲得することが重要です。
IRRの数値から収益率の高い案件は見つけられますが、収益額が大きい案件を見落とす可能性が出てきます。
IRRは、投資期間全体における収益率を測ることに特化しているので、収益額の大きさ、つまり「投資規模」は把握できません。IRRのデメリットは、投資規模を考慮できない点です。
大前提として、基本的に投資において最も重視すべきは、最大の利益を獲得することです。
IRRを用いて収益率の高い案件を選んだとしても、結果として収益額が大きい案件を見落としてしまっては、元も子もありません。
したがって、IRRが高ければ高いほど良い投資かというと、必ずしもそうではありません。
採算性を評価する指標として、NPV法(正味現在価値)という指標があります。
NPVは、投資により生み出される価値を数値化した指標なので、「投資規模」の把握が可能です。
NPVによって収支の総額が明確になるため、投資によって得られる収益の大きさを判断することが可能です。また、複数の投資案件を比較したい場合などにも有効です。
IRRとNPVを使い分けることで、優良な投資先の比較検討が可能です。
指標 | 特徴 |
IRR | 投資効率の把握が可能 収益率の高さを測ることができる 投資規模の把握ができない IRRが高いと投資リスクも高い |
NPV | 投資規模の把握が可能 収益額を見るときに有効 複数の投資案件を比較にも有効 |
投資評価の計算方法
すると、現在の10,000円と1年後の10,500円の価値は同じものとして考え、割引率は5%ということになります。このように、現在価値は「将来得られるキャッシュフローを、現在の価値に換算したもの」を表し、以下の式で計算できます。
現在価値=将来価値/(1+r)n
将来価値=現在価値x(1+r)n
r=割引率
n=年数
DCF法(価値を算出する方法)
DCF法(割引キャッシュ・フロー)とは、複数期間にわたる各年のキャッシュ・フローを、割引率を使用して現在価値に換算し、合計することで、収益資源を持ち続けることによる収益の現在価値を算出する手法です。
PV = (1年後のCF)/(1+r)+(2年後のCF)/(1+r)2 +・・・+(n年後のCF)/(1+r)n
PV: 複数期間にわたる期待CFの現在価値
CF: n年後のキャッシュ・フロー
r: 割引率
将来の、各期における配当を用いて株式の価値を評価するときや、投資による期待キャッシュ・フローを用いて投資の価値を求めるときなどに使われます。
NPV法(投資規模の評価をする為の指標)
NPV(純現在価値)とは、投資案件から将来得られるすべてのキャッシュ・フローの現在価値と、すべての投資金額の現在価値の差で、NPVを用いて投資案件の実行可否を判断する方法です。
NPV =PV - I
PV: DCF法によって求めた現在価値
r: 割引率
I : 初期投資額
DCF法とNPV法の違いは、初期投資額を考慮するか否かです。
NPV法は、以下の様に判定します。
- NPVが正である投資案件に投資、NPVが負である投資案件を却下
- 複数の投資案件から最適な案件を選ぶとき、NPVが最も大きいものを選択すべき
Excel関数を利用する
NPV( 範囲,[推定値])という組み込み関数を使用します。
「範囲」に初期投資額や年ごとのキャッシュフローを選択します。
「推定値」は計算結果の予想値という意味です。
IRR法(投資の効率性を測る指標)
IRR(内部収益率)とは、投資の意思決定を行う判断基準の1つで、NPVをゼロにする割引率のことです。
言い換えると、「初期投資額」と「投資が生み出すキャッシュ・フローの現在価値」を等しくする割引率のことです。
PV = I
又は、
(1年後のCF)/(1+r)+(2年後のCF)/(1+r)^2 +・・・+(n年後のCF)/(1+r)^n ― I=0
PV: 複数期間にわたる期待CFの現在価値(DCF法によって求めた現在価値
CF: n年後のキャッシュ・フロー
r: IRR (割引率) ←DCF法を逆算してこの値を求める
I : 初期投資額
NPVが大きくなればIRRも大きくなります。NPVは絶対額で評価し、IRRは率で評価するという違いがあります。
IRR法は、以下の様に判定します。
- IRRが1を超える投資案件に投資、IRRが1未満である投資案件を却下
- 複数の投資案件から最適な案件を選ぶとき、IRRが最も大きいものを選択すべき
Excel関数を利用する
IRR( 範囲,[推定値])という組み込み関数を使用します。
「範囲」に初期投資額や年ごとのキャッシュフローを選択します。
「推定値」は計算結果の予想値という意味です。
Excelのゴールシーク機能を利用する
ゴールシークとは、表に元々入っている数式を利用して、計算結果から必要な値を逆算してくれる便利機能です。
不動産投資でのIRRの活用法
IRRの細かい数値にこだわることには、あまり意味がありません。
重要なのは、IRRの概念を理解した上で、どのような投資法が自分に適しているかを見つけることです。
IRRが高い物件の特徴
投資案件を選ぶ上で、IRRをもとに収益性の高い案件を判断できることがわかりました。
しかし、例えば不動産投資で物件を探す際に、あらゆる物件のIRRをすべて計算する手間はかけられません。
不動産を選定する時に、全ての物件でIPPを計算して収益性の高い案件を探すとなると、計算の手間は莫大です。
このため、計算を実施する前に、IRRが高い物件の特徴で先に絞り込みをしましょう。
早期にプラスのキャッシュフローを得られる物件
耐用年数を過ぎて減価償却を大きくとれる物件はIRRが高くなる傾向があります。
例えば、築古の木造アパートなどは、IRRが高くなります。
これは、最初の数年間で減価償却費を大きく取ることで、大きなプラスのキャッシュフローを得られるからです。
高値で売却できる(資産価値が下がりにくい)物件
最終的に売却価格が低くなってしまうような物件は、IRRが低くなってしまいます。
高値で売却できるのは、購入から年数が経過しても価格が下がりにくい、あるいは価格が上昇するような物件です。以下のような物件は、価格が下がりにくい傾向があります。
- 「住みたい街ランキング」上位などの人気エリア
- 駅から近いなど、生活の利便性が高いエリア
- 首都圏などの人口が減らない地域
- 中古物件(新築は価値が下がりやすい)
これから購入する不動産の価格を知る指標、還元利回り(キャップレート)
前章までで、IRR等を利用することにより、収益性を確認することができたと思いますので、この章では、収益性の高い不動産の価格を求めるための方法を説明します。
不動産の価格を求めるために使われる不動産鑑定方法には以下の3つあり、それぞれの関係を示すと、下表のようになります。
査定手法 | 内容 | 着目点 | 試算価格名称 | 対象物件 |
取引事例比較法 | 近隣地域か同一需給圏内の類似地域の似た不動産と比較する手法 | 市場性 | 比準価格 | 「土地」や「区分のマンション」の価格を求める際に利用 |
原価法 | 建築費等のコストから導き出す手法 | 費用性 | 積算価格 | 「建物」の価格を求めるのに利用 |
収益還元法 | 不動産の生み出す収益から価格を査定する手法 | 収益性 | 収益価格 | アパートのような収益物件の価格を求めるのに利用 |
以下にて収益と関連の深い「収益還元法」について説明します。
なお、収益還元法は、さらに「直接還元法」と「DCF法」という2つの手法に分けることができます。
「DCF法」については前述したので、ここでは、「直接還元法」について説明します。
収益還元法とは
収益還元法とは、不動産から将来的に生み出される収益を、現在の価値に割り引いて不動産価格を計算する方法です
収益還元法は、これから買おうと思っている不動産の適正価格を知りたい時に使う方法です。
収益還元法は、さらに「直接還元法」と「DCF法」という2つの手法に分けることができます。
なお、「DCF法」については前述したので、ここでは、「直接還元法」について説明します。
直接還元法とは、ある一定期間の純収益を還元利回りで割って収益価格を求める方法です。
計算が簡便であるため、不動産価値を算定するために最もポピュラーな手法だといえるでしょう。
計算式は以下の様になります。
不動産価格 = 1年間の利益(家賃収入-経費) ÷ 還元利回り(%)
還元利回りは、以下のように、地域や利用状況、事業用かによっても値が異なります。
以下に、共同住宅(店舗・事務所との併用を含む)の地域別の還元利回りをまとめましたので、参考にしてみてください。
地域 | 還元利回り |
全国 | 6.0% |
都心5区 | 4.6% |
都心周辺区 | 6.1% |
東京その他 | 5.3% |
大阪市 | 4.2% |
名古屋市 | 5.4% |
他中核市(人口30万程度) | 6.0% |
他人口10万都市 | 6.7% |
その他地域 | 8.8% |
ちなみに、還元利回りが高ければ高いほど単純に良いというわけではなく、空き室リスクや老朽化リスクなどが低い物件は還元利回りが低くなります。
表には集合住宅の還元利回りをまとめましたが、事業用不動産の場合は集合住宅よりも還元利回りの平均が高めとなります。レジャーホテルの場合は全国平均で9.5%、旅館は7.4%、事業用不動産は7.9%などとなっています。
ちなみに、還元利回りの目安は、立地や築年にもよりますが賃貸用住宅なら5~8%程度、事業用なら7~10%程度です。
なお、還元利回りを求める方法として、同等の不動産の価格が解っている場合には、以下の式で屐残して求めることが可能です。
還元利回り(%) = 1年間の利益(家賃収入-経費) ÷ 不動産価格(円)× 100
この場合、還元利回りは、投資額に対する年間の利益の割合、つまり不動産の収益性を表した利率といえます。
このように、不動産価格が決まっている場合は、還元利回りを計算して比較することで投資物件の判断ができます。
さいごに
不動産投資をする場合には、もっとも収益率の高い投資案件を見極めることが必要です。
IRRは、投資資金を回収するまでの期間を考慮することで、「手元の限られた資金をどこに投下すべきか」を知ることができる、とても便利な指標ですが、IRRが高い投資が必ずしも良い投資でとは限りません。
NPVは、プラスであれば投資価値があると判断されるので、必ず、IRRと一緒に計算する様にして下さい。
一般的に、資金の制限が少なく、単一のプロジェクトを評価する場合は、金額を評価することができるNPVを用い、限られた資金を複数に分配することを考える場合は、効率性を評価することができるIRRで判断します。
早期にキャッシュフローを得て資産を拡大させたい方は、IRRが高い築古木造アパートなどに投資すると良いでしょう。この場合、同じような物件を比較する際にIRRを用いることには意味があります。
一方で、長期間安定的に収益を得たい方は、IRRが低くても、新築や築浅の物件の方が適しています。
そもそも、短期的な売却を想定していないような場合には、IRRを計算すること自体にあまり意味がありません。売却時期が先になるほど、当然IRRは低くなるからです。
不動産投資の評価に迷った場合は税理士に相談するのがお勧めです。
なお、以下の記事では、税理士の紹介をしていますので、是非ともご参照下さい。
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