外国の財産にも相続税がかかる!相続税計算時の外国税額控除の計算例

相続の手続き
この記事は約11分で読めます。
記事内に広告が含まれています。

これにより、外国に不動産などの財産を所有している方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。

経済のグローバル化に伴い、国境を超えた人・財貨・資本等の移動が盛んとなり、富裕層を中心として個人の海外投資が急拡大し、国境を跨いだ相続・贈与の件数が増加しており、その結果、各国の相続税等に係る課税方式の相違や納税義務者あるいは課税財産の範囲の規定の相違を原因として、複数の国家で課税権が競合し、国際的二重課税の発生という問題が深刻化しています。

このような国際的二重課税の発生は、相続税の負担水準を著しく引き上げ、経済関係の発展及び個人的な資本移動を特に阻害することから、この負担水準をある一定の範囲に抑えるために、国際的二重課税を調整する必要性が生じます。

 

そこで、本記事では、相続・贈与に係る国際的二重課税の発生原因を分析し、国際的二重課税を適切に対処するための措置の方法や計算例を解説します。

 

 

 

 

相続・贈与に係る国際的二重課税

相続・贈与に係る国際的二重課税の発生原因

相続・贈与に係る国際的二重課税の発生原因については、全世界財産に対して課税する無制限納税義務とそれ以外の国内に所在する財産についてのみ課税する制限納税義務という課税範囲の概念に基づいて、次の3つの態様に分類することができます。

 

無制限納税義務と制限納税義務間の競合

A国の居住者がB国の財産を取得する場合であり、最も典型的なケースです。

すなわち、居住地国における無制限納税義務と財産所在地国における制限納税義務が併存することによって国際的二重課税が発生します。

 

無制限納税義務相互間の競合

A国の居住者がB国の居住者でもある場合又はA国の居住者がB国の国籍を有しているような場合であって、AB両国で無制限納税義務が課されることによって国際的二重課税が発生します。

財産の所在地概念の競合

複数の国から自国所在の財産であることを理由に納税義務を課される場合であって、財産の所在に関する考え方の相違から生じます。

例えば、同一株式について、発行法人の本店所在地国と物理的な株式の所在地国の双方から課税されることによって国際的二重課税が発生します。

 

国際的二重課税の対応策

上記の原因により発生した国際的二重課税に対しては、国内法上の措置のみにより解消するものもあれば、国内法による片務的な救済措置のみでは不十分であり、租税条約により国内法とは異なる要件を定めるなど双務的な救済措置をあわせて講じることが必要な場合もああります。

そして、国内法上は、A国の居住者がB国の財産を取得する場合に発生する国際的二重課税を調整することに重点が置かれ、その調整方法として外国税額控除による方法が採用されています。

しかし、現行の国内法上の措置では、対象となる外国租税の適示が不明確であるという問題があり、これについては、対象とする税目を明らかにする租税条約による措置をあわせて講じることが国際的二重課税の緩和に効果的です。

日本の相続税では「外国税額控除」という特例が設けられており、この二重課税を回避する制度が設けられています。

 

 

 

 

日本の相続税では、原則として日本国内にある財産だけでなく、外国にある財産にも課税されます。

そして、国外に財産がある場合は、日本の相続税とともに、財産のある外国の相続税もかかる場合があります。

このように、外国財産に対しては、日本と外国の双方において相続税が課される、いわゆる二重課税となる場合があります。

相続税の外国税額控除は、このような二重課税を回避するために設けられた制度です。

 

外国で相続税を納めた場合、その外国で納めた相続税額を上限として、日本の相続税から控除することができます。

控除額は、以下のいずれか少ない方の金額です。

  • 外国で支払った相続税額
  • 日本での相続税額×(外国にある相続財産額合計/相続人の相続財産額合計)

相続税の外国税額控除の適用を受けるには、以下の両方の要件を満たす必要があります。

  • 相続又は遺贈によって、日本国外の財産を取得した者
  • 日本国外の財産について、その外国で相続税が課された者

なお、後述するように、被相続人と相続人の外国での居住状況によっては、外国の財産に日本の相続税が課税されない場合があります。

この場合は、相続税の二重払いが生じていないので、外国税額控除の適用はできません。

 

被相続人と相続人の両者が10年を超えて外国に住んでいる場合は、外国の財産には日本の相続税がかからないので、外国税額控除の適用はありません。

それ以外の場合は、外国の財産にも日本の相続税がかかるので、外国税額控除の適用を受けることができます。

なお、日本国内にある相続財産については、被相続人と相続人の海外生活の有無・期間に関わらず、日本の相続税がかかります。

 

外国税額控除の控除額は、以下のいずれか少ない方の金額となります。

  • 外国で支払った相続税額
  • 日本での相続税額 ×(外国にある相続財産額合計/相続人の相続財産額合計)

【前提】
・対顧客電信売相場(TTS)=110円/ドル
・外国の相続税合計60万ドル=6,600万円
・子どもA相続分 国内財産3億円、外国財産3億円、日本の相続税1.2億円
・子どもB相続分 国内財産3億円、外国財産0円、日本の相続税8,000万円

外国で支払った相続税を日本円に換算する場合は、一般的に、外国で相続税を納めた日の対顧客電信売相場(TTS)を使います。

TTSとは、円を外貨に替える時に適用される為替レートのことです。

子どもAは外国財産を相続しているので、外国税額控除を受けられます。一方、子どもBは外国財産を相続していないので、外国税額控除の適用はありません。

したがって、子どもAの外国税額控除のみ計算することになります。

  • 外国で支払った相続税額 = 6,600万円
  • 日本での相続税額 ×(外国にある相続財産額合計/相続人の相続財産額合計)
    = 1.2億円×3億円/6億円=6,000万円

上記の内、いずれか少ない方の金額を選択することになるため、、外国財産を相続する子どもAの外国税額控除の金額は6,000万円となり、日本の相続税額は、1.2億円-6,000万円=6,000万円となります。

 

 

 

 

外国税額控除の適用を受けるための必要な書類は以下となります。

  • 相続税申告書第8表(外国税額控除額・農地等納税猶予税額の計算書)
  • 外国で支払った相続税額を証する書類(外国の相続税申告書など)
外国税額控除額の計算書(金融庁のホームページより)

 

 

 

 

海外預金の相続手続き

亡くなった方(被相続人)に海外預金があるかもしれない場合、まずは、その証拠となる金融機関からの郵送物などを大切に保管しておきましょう。

書類等を頼りに個人の方が外国の金融機関にアクセスすること自体が通常困難ですし、金融機関側の要請に対応することも困難なことが多いでしょう。

専門家でも必要書類を集めて、預金を取り戻すまでには、煩雑な書類を色々と作成しなければなりません。

委任状などの必要書類を集めるためには、すべての相続人の協力が必要となったり、様々な手続きもかかわってくるため、なおさら早めに専門家にご相談することをお勧めします。

 

日本国内の金融機関

日本国内にある預金口座を相続する場合に、常に必要となる書類は、戸籍です。戸籍には、全部事項証明、除籍、改製原戸籍などがあります。

 

 

海外の金融機関

外国にある預金等を相続により取り戻す場合には、日本の相続法に近い法制のヨーロッパの大陸法系の国の場合と大きく法制度の異なるイギリス・米国などの英米法系の国とでは、全く違う流れとなります。

 

ヨーロッパの大陸法系の場合:包括承継主義

フランス、ドイツなどのヨーロッパ大陸にある国の法制(大陸法系といわれています)は日本の制度と近いので、一般的には預金等の取り戻しがスムーズに進みやすいといえるでしょう。

死亡診断書(通常は、「除籍謄本」で用が済みます。)や戸籍に基づいた相続関係図、遺産分割協議書(分割前で法定相続分による取り戻しの場合は不要となります)などの書類が必要になり、すべて英訳します。これらの書類に英文委任状を添えます。

この英訳については、翻訳者が公証人の面前で翻訳の正確性・真実性について宣誓して署名し、その署名認証については、最終的に外務省のアポスティーユを付けてもらうことになります。

英文委任状についても、委任者(ご依頼者)が公証人の面前で署名し、アポスティーユをつけてもらいますので、これらの書類作成だけでも結構煩雑な手続きとなります。

それでも、預金口座の所在国の弁護士に間に入ってもらうケースは英米法系の場合に比べると格段に少なくなるので、その分、取り戻しやすくなるでしょう。

 

イギリス・米国などの英米法系の場合:管理清算主義-プロベート手続き

イギリス・米国をはじめとして、かつてイギリスの植民地であったオーストラリア、ニュージーランド、カナダ、香港、シンガポール、マレーシアなどの国々においては、相続手続についての考え方が日本とは大きく異なり、一般的にプロベート裁判所が遺産の分配に深く関与する非常に複雑な手続となります。

米国などでは、プロベート裁判所に関する法律は、連邦法ではなく、各州法で定められていますので、プロベート裁判所における手続きは州ごとに異なります。

このプロベート手続は裁判所が管理・監督する一種の清算手続であり、日本における限定承認手続と「清算」という点で類似しています。

プロベートは、不動産、株式、預金などの遺産の種類や価額、所在地などによっても、手続が異なってきます。

プロベート手続きは、亡くなった方(被相続人)の遺言が有る場合と、無い場合とで、大きく分かれます。

 

遺言がある場合

プロベート裁判所における遺言の検認手続を経て、そこで遺言執行者が指定されていれば原則としてその遺言執行者がプロベート裁判所の監督を受けながら、被相続人の借金や税金などの債務を遺産から支払って、その残りを、遺言に従い、遺産の現物を引き渡し、又は、遺産を金銭に換えて分配することになります。

 

遺言がない場合

プロベート裁判所が遺産管理人を選任し、その遺産管理人が裁判所の監督下で法律に従った遺産分配手続を進めることになります。

英米法系の国にある銀行等の金融機関に預けた預金の相続においては、預金額等によって扱いは異なりますが、相続人は基本的にはプロベート手続を行い被相続人の預金を取り戻すことが想定されています。

プロベート手続が我が国の相続法と根本的に異なるのは、相続人が相続開始と同時に遺産を法律上当然に承継できるわけではないところにあります。

プロベート手続きは現地の裁判所の監督のもとに現地で進められますので、当該外国の弁護士に手続きを依頼することが通常となります。

そのため、費用も時間も大陸法系の国々より相当かかる見込みであり、その分取り戻しの時間・費用・手間などの負担が重くなります。

取り戻しの時間は、遺産が不動産か、預金などかによっても大きく異なりますが、1年~3年くらいかかるのが通常です。

費用額については、遺産の種類や所在地などによっても、また、プロベート手続きを依頼する現地の弁護士によっても大きく異なってきますので、一概に説明することは不可能であり、個別事案ごとに検討するしかありません。

なお、現地の弁護士については、現地の金融機関等に紹介してもらうことになります。

結論としては、プロベート手続きは回避すべきであり、生前に回避のための対策(リビングトラストや受取人指定口座など)をしておくことが必要です。

 

今回は、相続・贈与に係る国際的二重課税と海外預金の相続手続きについて解説しました。

日本のほか、米国、イギリス、フランス、ドイツなどには相続税という制度があります。

その一方で、相続税を廃止した国や、そもそも制度自体が存在しない国も少なくありません。

被相続人が、外国に住んでいた、外国で働いていたという場合には、外国財産の有無についてもしっかり把握しておく必要があります。

そして、その国に相続税という制度があるか、制度がある場合には、外国税額控除を受ける要件を満たしているかなどをしっかり確認することが必要です。

外国にある資産の相続は、非常に大変で、お金と時間が掛かるので被相続人が死亡する前に日本に資産を移す等の対策をしておくのが良いです。

尚、手続きが「難しい」と感じた際には、一度、税理士に相談してみてください。

相続の相談については、以下の記事で紹介していますので、参考にして下さい。

 

コメント

タイトルとURLをコピーしました