相続税をできるだけ節税して子や孫にできるだけ多くの財産を残してあげたい。そんな思いがあるかと思います。
そんなお悩みの方に「生前贈与」をおすすめします。
生前贈与は、生存中にできるだけ多くの資産を子や孫に渡すための相続税対策の1つの方法です。
生前贈与を考える上では、注意点がいくつかあります。
今回は生前贈与のメリット/デメリット・注意点について詳しく解説してみたいと思います。
生前贈与とは?生前贈与にかかる贈与税とは?
贈与とは、人から人に財産を与える契約のことを言います。また、この時、財産を与える人を「贈与者(ぞうよしゃ)」といい、受け取る人を「受贈者(じゅぞうしゃ)」と呼びます。
対象は、贈与者、受贈者共に生きていることが前提です。
贈与税は、この受贈者に掛かる税金となります。
生前贈与とは?
では、相続対策の選択をするときに実施する「生前贈与(せいぜんぞうよ)」とは何でしょうか?
法律用語としては、「生前贈与」という言葉は存在しません。
贈与とは、人から人に財産を与える契約なので両者とも生きていることが前提になります。
しかしながら、相続を考える場合には、贈与者が死ぬことを前提で相続対策を考えます。このため、贈与が発生するタイミングが贈与者が死ぬ前か、死んだ後かで、税金や遺産分割する財産が変わってくるため、便宜上「生前贈与」という言葉が発生しました。内容は普通の贈与と同じです。
①例えば、海外に留学している息子に頼まれて、母親が仕送りをするために銀行で息子に300万円を送金した直後に亡くなった場合には、息子は未だ銀行でお金を受け取れていません。(海外の銀行となるため、通常息子の銀行口座には数日後に反映されます。)
この場合には、既に送金が完了しているため、「生前贈与」となります。
②しかしながら、母親が送金時に講座番号を間違ってしまい、宛先不備で返金されてしまった場合にはどうなるでしょうか?
この場合には、一旦、母親の振込口座に返金されてしまうため、贈与が成立していないことになります。
この後、息子は母親の財産を相続する訳ですが、母親の財産額が①の場合と②の場合で異なるため、相続税の計算結果も異なってきます。
この様に、「生前」と「死後」では相続税の金額が異なってきてしまいますので、明確に「生前」の贈与であったことを明確にするために一般的に「生前贈与」という呼び方をします。
尚、「死後」の贈与については、「死因贈与」や「遺贈」が存在します。「死因贈与」は「死を原因として贈与することを生前に合意した」場合で、「遺贈」は「遺言書を作成して財産を与える人を指定する」というものです。
贈与する財産は、預貯金だけでなく、土地や建物などの不動産や株式、貴金属など、特に種類を問いません。
通常、生前贈与は相続税の節税対策を目的としておこなわれますので、贈与者の相続税の課税対象となる財産を減らすことができますが、渡す額に応じて、受贈者に贈与税が課税されます。
贈与税は、受贈者毎に毎年110万円以内であれば無税ですが、条件に応じて一定の金額が非課税になるさまざまな特例がありますので、無税で高額の財産を移転することも可能となります。
生前贈与のメリット
- 贈与に関する控除や特例を適用すれば、贈与税の大幅な節税が期待できる
- 生前贈与により財産総額が減れば、相続税の節税につながる
- 自分の望むタイミングで贈与ができる
- 贈与相手を自由に選ぶことができる(法定相続人でなくともOK)
- 生きているうちに財産を分割できるため、相続トラブルの回避につながる
多くのメリットがある生前贈与ですが、その一方でやり方に誤りがあると税務署が生前贈与を認めず、多額の贈与税や相続税が課せられるリスクもあるので注意が必要です。
生前贈与のデメリット
- 税務署に生前贈与を認められない可能性がある
◎ 生前贈与の成立要件に気をつける
◎ 定期贈与とみなされないよう証拠を残す - 不動産を贈与する際には、贈与税以外の税金に注意
- 相続開始時点から遡り3年以内の贈与は相続財産に加算される
(令和6年からは7年に変更される) - 相続税の計算が複雑になる
- 遺留分侵害額請求をされる恐れがある
2番の「動産を贈与する際には、贈与税以外の税金に注意」は、不動産を贈与した場合には、以下の様な税金が掛かります。
【不動産贈与時に発生する税金】
- 登録免許税(贈与の場合は固定資産税評価額の1000分の20)
- 不動産取得税(相続は対象外)
その他、登記関連の費用が発生するため、ある程度の費用は準備しておかなければいけません。
5番の「遺留分侵害額請求をされる恐れがある」は、きちんと行われた生前贈与であったとしても、他の相続人の遺留分を害する場合には、その分について請求される恐れがあるということです。
【遺留分の算定に含まれる生前贈与】
- 亡くなる前1年以内に行われた生前贈与
(ただし遺留分権利者を害する目的で行われた贈与は1年以内に贈与された財産以外も対象となる) - 受贈者が相続人であり、贈与が特別受益にあたる場合の生前贈与
(相続開始から遡って10年間以内が対象)
生前贈与を検討する場合には、遺留分の侵害がないかも一緒に確認して行うことをおすすめします。
生前贈与をおすすめする人
相続を考えたときに、生前贈与をした方がよいかどうか悩んでいる方も多いと思います。
生前贈与は、資産を残したい人が子どもや孫であり、且つ、控除や特例を適用できる場合には節税効果が期待できますが、子どもや孫がいない場合には、余り効果が期待できません。
生前贈与が向いてる方は以下の様な方です。
- 年齢が若い
- 複数人に財産を分配することを望む人
- 特定の人に対して財産をあげたい人
- 受贈者の望むタイミングで贈与したい人
- 収益物件の贈与を検討している人
- 価値上昇の見込みがある財産を贈与したい人
- 贈与者が事業の経営者の場合
- 推定相続人同士の仲がよくない人
相続開始前7年以内の生前贈与が贈与税の対象として扱われる
相続開始前7年以内の生前贈与は有効だが、その財産を相続財産と合計して課税価格の計算が行われる(令和6年1月1日以前の贈与は3年)
なお、令和6年1月1日以降の贈与税の扱いの詳細については、以下の記事を参照して下さい。
しかし、孫に生前贈与をした場合は相続開始前7年以内であっても相続税の課税価格に含まれません。極端な話、死亡した当日に孫へお金を渡しても贈与が有効となります。(但し、子供が既に亡くなっており、「相続または遺贈により財産を取得したもの」に該当する場合には、このルールが適用されなくなってしまいます。)
贈与をする時には、贈与税の申告を忘れない様に
贈与税は、申告をしないと延滞税(最大年14.6%)と加算税(15%~40%)が課されますので、贈与をする場合には申告を忘れない様にしてください。
生前贈与の配偶者控除とは
生前贈与の配偶者控除とは配偶者に対し
- 居住用の不動産
- 居住用の不動産を買うためのお金
いずれかを贈与した場合、2000万円までの非課税枠が加わる制度です。配偶者は贈与でも相続でも他の人より優遇されています。
また、婚姻期間が20年以上であるという条件があります。非課税枠を使っての節税対策や安定した住居を保つ手段として使われます。
贈与税の申告を忘れずに
配偶者控除は最大で2000万円の控除が受けられ、これに毎年の基礎控除額である110万円を加えれば2110万円までが非課税となります。これだけの額であれば贈与税がゼロとなることも考えられます。
しかし、配偶者控除の適用は申告が条件となっています。つまり、配偶者控除に適用するだろうと申告を怠ると大きな贈与税を払うことになりかねないです。
相続開始前3年以内の贈与でも相続財産としてカウントされない
生前贈与で注意すべきポイントとして相続開始3年前の贈与が無効となるルールがあります。しかし、配偶者控除を受けた財産はその対象外です。相続開始3年以内の贈与であっても贈与のまま扱われ、相続財産が増えることはありません。
よって亡くなる直前の贈与となってしまった時の心配は要りません。
配偶者控除でないものは贈与が無効になる
相続開始前3年以内に行われた贈与は無効となります。仮に、配偶者控除を使わず贈与税を支払った場合であっても贈与が無効となる以上贈与税も無効となります。
このルールが適用された財産は相続財産として課税対象となり、すべての財産を合計した相続税と相続開始前3年以内に支払った贈与税が差引されます。
売却した時の所得税対策にもおすすめ
不動産は、時に売却することが考えられます。例えば引っ越しをするときや夫婦そろって老人ホームに入る場合などは不動産が必要なくなってしまいます。たとえ売却するかもしれない建物でも持分を贈与しておけば所得税を安くできます。
財産の売却に対しては売却益のうち3000万円までが非課税となります。もし、不動産を夫婦で共有しておけば
まで非課税とすることができます。
持分を分ける契約とは?
持分とは、家の物理的な所有割合でなく「権利を所有している割合」です。したがって家を夫婦でそれぞれ2分の1という持分にした場合でもお互いが家全体を利用することができます。権利の所有が問題となるのは家を改築する時や、人に貸し出すときなどです。この時は持分を持っている人が法に基づいて話し合います。
持分を分ける契約は誰に持分をいくら与えるという贈与契約で、持ち分に応じたお金を税務署に申告します。家と土地のどちらかを贈与することも考えられます。
一生に一度しか使えない
生前贈与で配偶者控除を使えるのは一生に一度だけです。もし、110万円を少し超えるくらいで配偶者控除を使ってしまった場合でも、もう二度と利用することができません。
孫への贈与は大きな節税になります
駆け込み贈与をする候補として最も適しているのは孫です。孫は家族でありながら相続人でないため、駆け込み贈与をしても持ち戻しされません。
しかも、孫への贈与については教育資金として1500万円までが非課税となります。孫が大人になったのなら結婚資金として300万円、ひ孫の子育て資金なら結婚資金と合わせて1000万円まで非課税の贈与ができます。
孫の教育資金の贈与は非課税
孫への生前贈与は相続税の節税になります。
そして、孫に教育資金を贈与する場合は贈与税の非課税枠が1500万円まで加算されます。これを教育資金一括贈与といいます。
この贈与は一人の孫につき1500万円 ですから、孫が2人いる場合は3000万円までとなります。
しかし、贈与税は「いくら受け取ったか」で判断されます。例えば「母方の祖父母と父方の祖父母がお互いに孫へ1000万円ずつ教育資金を贈与した」場合は500万円が課税対象になってしまいます。
教育資金を1500万円以上与えたいときは暦年贈与の控除額を利用します。
孫の教育資金の贈与の範囲
孫の教育資金の贈与は孫一人につき1500万円までが贈与税課税の控除額となります。1回で与える必要はないため、500万円を3回に分けても可能です。教育資金として認められるものはこのようなものです。
教育資金として認められるためにはその証明としてレシートや領収証を確保してください。
学校等に支払うべきもの
学校の入学金や授業料がこれにあたります。学費の高い、低いは無関係ですから私立学校でも医学部でも30歳になるまでの合計が1500万円までなら非課税で贈与ができます。
学校等となっているのは保育園や幼稚園、職業能力開発大学校、水産大学校などが認められるからです。修学旅行費もOKです。
学校以外に支払うもの
学校以外では塾や習い事に支払うお金が考えられます。ただし、習い事なら何でも認められるとは限りません。「この習い事は認められるかな?」と疑問が出たら弁護士に相談しましょう。
生前贈与加算
生前贈与加算とは、相続が発生した際に、その死亡前3年以内に故人から相続人が贈与を受けていた場合、その贈与額を相続税を計算する際の相続財産に加える制度です。
相続財産を減らすために駆け込みで贈与を行うことを防ぐことが目的となっています。
なお、亡くなる3年前から非課税枠の範囲で行った贈与についても相続税が課されることになります。
まとめ
1年間の贈与を贈与税がかからない110万円までに抑えるのが良さそうですが、そのまま財産を所有した場合に将来課される相続税率によっては、贈与税の方が有利になることもあります。
さまざまな控除や特例を利用することで、非課税で生前贈与できます。
贈与税の計算方法については、以下の記事で説明していますので参考にしてください。
尚、生前贈与については、さまざまな控除や特例が存在するので、まずは【弁護士ドットコム】で相続相談をするのがおすすめです。
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