財務分析とは、財務三表などを見ながら、企業の現状や問題点を把握することです。企業の現状や問題点を把握することで、改善点がわかり、今後の経営戦略を立てるのに役立ちます。
財務分析は、企業の成長のために欠かせない重要な指標であるため、必ず理解しておく必要があります。
今回は財務分析の方法について、必要指標とそれぞれの計算方法をご説明します。
財務分析とは?
財務分析とは、経営者や投資家、取引先などが、企業の全体像や問題点を把握し、それに基づき意思決定をするために、財務諸表(財務三表)を分析、比較、解釈(財務諸表分析)して、会社の収益性・安全性・生産性・成長性を分析し、業界内や競合他社と比較することを指します。
会社の経営に「改善する点はないか」「問題はないか」をチェックすれば、経営危機を回避できますし、将来の会社の利益を予測することもできます。
財務分析により、正確な現状把握と将来予測をすることで、ベストな意思決定ができるようになります。
財務分析を行うための財務三表
財務分析の目的は、自社の経営成績を分析し、他社との比較などを行うことです。
財務分析を行うためには、財務三表が必要になります。
財務三表は、主に企業の利害関係者が企業の状況を判断するためのものです。例えば、税務署に確定申告として決算書を提出します。税務署は決算書を見て、納税におかしいところがないかなどを確認します。
株主も決算書を見て企業の状況を把握し、今後の出資などの参考にします。
さらに融資を受けている、または融資を受けようとしている金融機関も、決算書を見て企業の状況を判断し、今後の融資などの参考にします。
出資や融資は企業の成長には欠かせないものです。そのため、経営者は必ず決算書の正しい見方や読み方を把握しておく必要があります。
この財務三表について簡単に説明します。
貸借対照表(BS)
「貸借対照表」は、現金や借入金などの資産や負債の状況が記載されています。
企業の財政状態を明らかにするための書類であり、その時点における会社の資産・負債・純資産の金額を表示するものです。
例えば、3月決算の会社であれば、3月31日時点の会社の財政状態を示します。
資産とは、現金・普通預金・売掛金・建物などの固定資産といった、会社が持っている財産のことです。
負債とは、買掛金・借入金などの会社が第三者に対して負っている支払義務のことです。
純資産とは、資産と負債の差額のことであり、企業が持っている自己資本のことです。
損益計算書(PL)
「損益計算書」は、売上や仕入などの収益や費用の状況が記載されています。
企業の経営成績を明らかにするために、一会計期間における収益と費用の金額を表示するものです。例えば、3月決算の会社であれば、期首の4月~期末の3月までの会社の経営成績を表示しています。
収益とは簡単に言えば、会社の収入を言い、費用とは会社が支出したものを言います。
この収益と費用との差額が、利益になります。
キャッシュフロー計算書(CF)
「キャッシュフロー計算書」は、お金(キャッシュ)の流れ(フロー)のことです。
企業会計では企業にお金が入ってくることをキャッシュイン、お金が出ていくことをキャッシュアウトというため、キャッシュフローは以下のような概念で表現できます。
キャッシュフロー = キャッシュイン(入ってきた現金) – キャッシュアウト(出ていった現金)
キャッシュフロー計算書は、営業活動など企業の活動を3つに分けてキャッシュの出入りを示したものです。
そして、キャッシュフロー計算書の作成は粉飾が難しく資金調達の評価に活用できることから、義務はなくても作成することにメリットがあります。
これらの、財務三表は、以下の記事で詳しく説明しています。
財務分析の5つの分類
財務分析は以下の5つの目的によって分類されます。
収益性分析
企業がどれだけ利益を上げられているのかを見る分析手法が「収益性分析」です。
利益の具体的な額ではなく、その比率を見ていくのが特徴です。
企業ではさまざまな資本を使って事業を行い、そこから売上を得ることで利益を出しています。
利益を上げられなければ、会社の継続的な事業運営は不可能です。
そこで、「自社で活用した資本が効率良く利益を稼いでいるかどうか」を把握するための手法が、収益性分析となります。
収益性分析は、粗利率や売上高営業利益率などの数値を使って分析が行われます。
収益性分析とは簡単に言うと、企業の稼ぐ力がいくらかを示す指標のことです。収益分析の代表的な指標は、以下の通りです。
粗利率(売上高総利益率)
「売上高から売上原価を差し引いた売上総利益」が粗利であり、粗利率は売上高に対する売上総利益の比率です。企業の大まかな利益率を表す基本的な指標です。
粗利率(%)=売上高総利益÷売上高×100
売上高営業利益率
「売上高に対して、どれだけ営業利益が残っているのか」を表した数値が売上高営業利益率です。営業(販売・管理)の効率性を判断する指標で、比率が高いほど良く、いくら売上が高くてもこの指標が低い場合は、利益が残っていないことになります。
売上高営業利益率(%)=営業利益÷売上高×100
総資本経常利益率
総資本経常利益率は、株主や銀行などで集めたすべての資本を用いて、いくらの利益を稼いだかを表す指標です。
総資本経常利益率(%) = 経常利益 ÷ 総資本 × 100
経常利益とは、支払利息や受取利息など、営業活動以外の収益や費用も加味した利益のことです。
総資本とは、株主や銀行などで集めたすべての資本を指します。
もし、総資本の替りに、主に株主から集めた資金(自己資本)を用いて計算すると、株主資本(自己資本)経常利益率を算出できます。
経営資本営業利益率
経営資本営業利益率は、本業に特化している指標で、本来の営業活動で使っている資本からいくらの本業の利益を稼いだかを示す指標です。計算に使う利益には、本業の利益を示す「営業利益」を用います。
また、計算に使う資本には建設仮勘定や遊休資産、投資その他、繰延資産などを除いた資本を使います。
経営資本営業利益率(%) = 営業利益 ÷ 経営資本 × 100
基本的にはどの指標も、利益率が高いほど効率的な経営と言えます。
損益分岐点売上高
損益が0円となる売上高である「損益分岐点売上高」を収益性分析に使うこともあります。
損益分岐点売上高(%) =固定費 ÷ 限界利益率({1-(変動費 ÷ 売上高)} × 100
安全性分析
安全性分析は、その企業にどれだけ支払い能力があるのかを分析する手法です。
この分析により、その会社の経営状態の安全性(財務的に安全なのかどうか)がわかります。
安全性分析にはいくつもの指標が使われますが、おもな指標としては流動比率や自己資本比率があります。
<短期的な財政安全性分析>
短期的な財政安全性分析を評価する指標には次の3つがあります。
流動比率
流動比率は、企業の短期支払能力を分析する指標です。
企業が1年以内に得られる現預金の額を表す流動資産と、1年以内に支払う現預金の額を表す流動負債を比較したものが流動比率です。
流動比率が小さいと、短期的な支払いが多いということとなり、財務的な安全性が低いと判断できます。
流動比率(%)=流動資産÷流動負債×100
当座比率
当座比率も、企業の短期支払能力を分析する指標です。
当座資産とは、換金性の高い資産のことで、今すぐには負債の支払財源として使えないものを除いたものです。
例えば現金、受取手形、売掛金などが当座資産になります(貸倒引当金がある場合には、貸倒引当金を控除した額)を使用します。
当座比率 (%)=当座資産÷流動負債×100
自己資本比率
自己資本比率は、総資本(自己資本+他人資本)に対する自己資本の比率を表す指標です。
会社の資金の調達先が自己資本であるか、他人資本(銀行からの融資など)であるかをチェックできます。
自己資本比率が低い場合は他人資本の影響が大きいということになり、経営が不安定だと判断されます。
自己資本比率(%)=自己資本÷(自己資本+他人資本)×100
<長期的な財政安全性分析>
長期的な財政安全性分析を評価する指標には次の2つがあります。
負債比率
負債比率は、資本と負債の比率を表す指標です。
自己資本でどれだけ負債を支払うことができるのかを示す指標で、負債比率が低いほど安全性が高まります。
負債比率(%) = 他人資本(負債)÷ 自己資本 × 100
固定比率
固定比率は、 固定資産がどれくらい自己資本でまかなわれているかを示す指標です。
100%を下回れば固定資産がすべて自己資本でまかなえており、安全なことがわかります。
固定比率 (%)= 固定資産 ÷ 自己資本 × 100
生産性分析
生産性分析とは、企業が投入した経営資源に対して、いくらの付加価値を得たのかを示す指標です。
付加価値とは、企業が労働や設備などの手段によって新たに付加した価値のことです。付加価値を数値化したものが、「付加価値額」です。
従業員や設備など、企業が抱えている経営資源を効率良く活用しているかどうか、そして、それがどれだけ売上や付加価値の創出につながっているかを見る手法です。この手法では、付加価値労働生産性という指標が多く使われます。
付加価値というのは、従業員の働き方の改善や設備投資による効率向上などで新たに付加したものを指しており、付加価値が大きいほどその企業の生産性は高いといえます。
付加価値を得るためには、人件費や賃貸料などの経費がかかるため、営業利益にそれらを足して価値を求めます。付加価値の計算は、一般的には次の計算式で求めます。
付加価値額 = 経常利益 + 人件費 + 金融費用 + 賃借料 +租税公課
生産性分析にはさまざまな指標がありますが、ここでは、労働者一人あたりが生み出した付加価値に注目した指標を見ていきます。
労働生産性
労働生産性とは、従業員1人あたりがどれほどの付加価値を生み出しているかが分かる指標です。
企業が生み出した付加価値額とは、株主への経常利益、経営者や従業員への人件費、銀行などへの金融費用、建物などの保有者への賃借料、社会への租税公課と、それぞれに配分されたものです。
その総和を平均従業員数で割った比率が労働生産性になります。
例えば、労働生産性が同じ企業が2つあった場合、従業員数が少ない企業のほうが従業員1人あたりの付加価値が高いということになります。
労働生産性が高ければ、それだけ効率の良い生産性が上げられていることになります。
労働生産性=付加価値額(経常利益+人件費+金融費用+賃借料+租税公課)÷平均従業員数
労働分配率
労働分配率とは、会社の付加価値に対する人件費の割合を表した指標です。
労働分配率が高い方が、少ない人件費で多くの付加価値を上げている会社と言えます。
しかし、労働分配率が高すぎると、人件費が低すぎることを示している場合もあるので注意が必要です。
労働分配率(%) = 売上総利益 ÷ 人件費 × 100
成長性分析
成長性分析は、それまで企業がどのように成長してきたか、そして将来の成長の可能性はどうかを見る手法です。
増収増益をしている会社の場合、成長しているといえるので、増収率や増益率を見ることが重要となります。
増収率(売上高伸び率)
前期と比較して、当期の売上高がどれだけ伸びたのかを確認できる指標が増収率です。
単年度だけでなく、過去数年分の伸び率も確認することで、売上高の推移を見るのが基本です。
また、前期の売上高に対して、当期が減った場合は「減収率」といいます。
増収率(%)=(当期売上高-前期売上高)÷前期売上高×100
増益率(経常利益伸び率)
前期と比較して、当期の経常利益がどれだけ伸びたのかを確認できる指標が増益率です。
増収率と同様に、増加するのが理想とされています。
一般に売上高が増えれば増収率が上がり、経常利益が増えれば増益率が上がります。
増益率(%)=(当期経常利益-前期経常利益)÷前期経常利益×100
増収率と増益率を組み合わせて見ることで、その企業が成長しているかどうかが判断できます。
売上高研究開発比率
売上高研究開発比率は、売上高に占める研究開発費の割合を知ることができる指標です。
売上高に対して、どれだけの研究開発費を投資したかがわかり、その企業の成長も予測できます。
売上高研究開発比率(%)=研究開発費÷売上高×100
成長性分析
成長性分析とは、企業における一定期間の成長度合いを示す指標のことです。
多くの場合、1年間でどれだけ成長したのかを分析します。
成長性分析にはさまざまな指標がありますが、ここでは売上高、利益、総資本に注目して指標を示します。
売上高成長率
1年間で増加した売上高を示す指標です。計算した結果がプラスであればこの1年間で売上高が増加したことを意味します。
売上高成長率 (%)=(当期売上高 - 前期売上高)÷ 前期売上高 × 100
経常利益成長率
1年間で増加した経常利益を示す指標です。計算した結果がプラスであればこの1年間で経常利益が増加したことを意味します。
経常利益を営業利益に置き換えて計算すれば、営業利益成長率を計算することができます。
経常利益成長率 (%)=(当期経常利益 - 前期経常利益)÷ 前期経常利益 × 100
総資本成長率
前期と比べて1年間で増加した総資本を示す指標です。
計算した結果がプラスであればこの1年間で総資本が増加したことを意味します。
総資本成長率(%) =(当期の総資本の金額 - 前期の総資本の金額)÷ 前期の総資本の金額 × 100
総資本は、資本と負債の合計金額で計算します。
そのため、前期より負債だけが増加したとしても、総資本成長率はプラスになります。総資本の内訳も注視しましょう。
効率性分析
効率性分析とは、企業が資本などを投下して、いかに効率よく売上や利益を生み出しているのかを示す指標です。
代表的な効率性分析には「売上債権回転率」と「総資本回転率」の2つがあります。
売上債権回転率
売上債権回転率とは売掛金や受取手形などの、まだ現金化されていない売上債権が現金化されるまでの期間を示す指標です。
売上債権回転率 = 売上高 ÷ 平均売上債権
売上債権回転率が高ければ高いほど、債権の回収時間が短いことを示します。売上が発生してから現金化するまでの期間が短ければ、資金的に効率的と言えます。
総資本回転率
総資本回転率とは、売上を得るために、資本が何回、回転したのかを示す指標です。
会社は事業を行うために、株主や金融機関などから資金(資本)を調達し、商品や製品、設備などの固定資産を購入します。
その後、商品や製品を販売し、資金を獲得します。資金を獲得したら、さらに商品や製品を購入し、販売します。このように、事業をしていると資本(資金)は回転します。
総資本回転率 = 売上高 ÷ 総資本
総資本回転率は、この回転数を指標としたものです。回転率が大きいほど、少ない資本で売上を得ていることになるので、効率の良い会社と言えます。
財務分析は同業他社や期間ごとの比較にも役立てられる
財務分析手法は、ほかにも、会社の経営が活発かどうかを見る「活動性分析」など、さまざまな分析手法が存在します。
どのような情報を知りたいのかによって、活用する分析手法は変わってきます。それぞれの知りたい要素や目的によって使い分ける必要があります。
また、財務分析で得られる指標では、同業他社や期間ごとの比較にも応用できます。
同業他社との比較では、自社の経営面での弱みや強みを見つけられますし、期間ごとの比較では企業活動の成果を正確に把握できるようになります。
ただし、財務分析はあくまでも財務諸表の数値を用いた分析手法です。
そのため、会計的な数値だけでは評価できないことは分析できません。
会計以外のデータも活用しながら、総合的に分析していくことが会社の将来予測につながります。
まとめ|財務分析を行って経営戦略を立てよう
これまでで説明してきた財務分析指標は何%であれば良いということは一概には言えません。
自社の過年度の財務分析指標との比較や同業他社との比較により、自社の現状や強みと弱みを発見することが大切です。
もちろん、財務分析は財務諸表数値を用いた手法ですので、貨幣で評価できない要素を分析することや将来予測に限界があるということも忘れてはなりません。
財務分析では会計以外のデータや過年度数値の延長線上ではない思い切った将来予測などとあわせて総合的な判断をすることが大切です。
なお、以下の記事では、税理士の紹介をしていますので、是非ともご参照下さい。
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