相続時の配偶者税額軽減(1億6千万円の控除)が子供に与える悪影響

相続税の求め方
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相続税の「配偶者の税額軽減」をご存知ですか?

夫婦の間の相続では、最低でも1億6000万まで相続税が課税されない、配偶者の税額軽減(別名:配偶者控除)という特例があります。

配偶者が取得する相続財産が最低でも1億6000万円までは相続税の課税がされないという配偶者に優しい制度です。

しかしながら、配偶者が更に死亡してしまった場合に残された子供の税金はどうなるのでしょうか?

配偶者の方が多くの財産を取得したことにより、子供は2次相続をする時に多くの税金を収めなければならなくなります。

 

今回は、相続時の配偶者税額軽減のご説明と、この制度を使用することによる子供への影響についてご説明します。

 

 

 

 

配偶者の税額軽減は、配偶者死亡後に子供に大きな負担

配偶者の税額軽減は、配偶者に係る相続税を大幅に控除してあげますという。大変お得な制度に感じます。

折角、最低でも1億6000万円までの減税をして貰えるなら、その枠を目一杯使用して相続税を減らしたいと思うのは普通の考えです。

このため、1億6,000万円以下の相続財産であれば、配偶者が全ての財産を相続して子供達は相続しない様にするのが一番お得であると考えてしまいがちです。

しかしながら、以下の相続税の計算例をご覧下さい。

 

相続税の計算例(配偶者の取得割合を変更して計算)

一次相続財産:16,000万円
配偶者の固有財産:8,000万円
子供の数:2人

配偶者の
取得割合
0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%
配偶者取得財産[万円] 0 1,600 3,200 4,800 6,400 8,000 9,600 11,200 12,800 14,400 16,000
配偶者の税額[万円] 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0
子供の取得財産[万円] 16,000 14,400 12,800 11,200 9,600 8,000 6,400 4,800 3,200 1,600 0
子供の税額
[万円]
1,720 1,548 1,376 1,204 1,032 860 688 516 344 172 0
一次相続の総税額[万円] 1,720 1,548 1,376 1,204 1,032 860 688 516 344 172 0
二次相続の総税額[万円] 470 710 1,000 1,320 1,660 2,140 2,620 3,100 3,580 4,060 4,540
税額合計[万円] 2.190 2,258 2,376 2,524 2,692 3,000 3,308 3,616 3,924 4,232 4,540

上記の表は、一次相続時の相続財産を、配偶者が取得する財産の割合を変更して相続税の計算をした結果になります。

配偶者の相続割合を0%から100%まで変更して計算した相続税の計算結果です。

 

相続税の計算例に対する考察

いかがでしょうか?

配偶者が財産を全く取得しない(0%)の場合の税金は2,190万円で、配偶者が全ての財産を取得した場合の税金は4,540万円です。
配偶者が財産を取得するかしないかにより、相続税の額が2倍以上も違うのです。

そんな馬鹿な?と思うかも知れませんが、これが事実です。

この計算では、配偶者が元々持っていた財産(配偶者の固有財産:8,000万円)を含めて計算していますが、最近では配偶者の方も働きに出ており、資産を全く持っていないということは無いのです。

だけど、8,000万円は多いのでは無いかと思われるかも知れませんが、不動産であれば共有名義にしていたり、家財の内容を洗ってみると、亡くなった方の1/3位の財産はお持ちではありませんか?

だけど、金額の良い悪いはありますが、配偶者の方が全く財産を持っていなかったとしてもこの傾向は同じとなってしまいます。

つまり、「配偶者の税額軽減」の制度を使用しない方が相続税の総額としては節税となるということです。

相続税の節税だけを考えるのであれば、配偶者の方が全く財産を相続しない方が有利であると言えます。

 

どの様に「配偶者の税額軽減」を利用したら良いか?

それでは、本当に配偶者の方が全く財産を相続しない方が良いのでしょうか?

答えは、ケースバイケースとなります。

故人の遺産を配偶者の方は、死ぬまでに幾ら必要で、子供にどの位の財産を残してあげたいかにより決まります。

墓の中までは財産を持っていくことはできないので、残りの人生設計をしてその為に必要な金額だけを相続して残りは子供に相続させるのが最も良い方法ではないかと思います。

今回は、「配偶者の税額軽減」に対して焦点を合せてシミュレーションを実施しましたが、相続税においては、他にも色々な特例や控除が存在します。

自分に合ったケースを色々考えてシミュレーションしてみるのが一番良いのですが、一般の方であれば、安易に色々なテストケースを実施することは難しいと思います。

また、税理士にこんなシミュレーションをお願いしたら、高額の費用を請求されてしまいます。

このため、本サイトでは、「相続税の計算を実施するシミュレーションツール」を2024年1月1日よりご提供する予定です。

相続のシミュレーションをお考えの方は是非この機会にご利用いただけると幸いです。

 

 

 

配偶者の税額軽減は、配偶者死亡後に子供に大きな負担

基礎控除との関係

配偶者控除も基礎控除も、相続税の計算上マイナスするという意味では同じです。

しかし、計算プロセスにおけるマイナスするタイミングが異なるため、この二つの控除はまったくの別物なのです。

基礎控除のマイナスするタイミング

基礎控除は、相続税を計算する一番最初のステップである、家族全体の相続税額を計算する際にマイナスする控除額です。

亡くなった方の遺産額から、基礎控除をマイナスし、そこに相続税の税率をかけて、家族全体の相続税額を算出します。

算出された家族全体の相続税を、実際に財産を相続する割合に応じて、各相続人に振り分けます。

 

「配偶者の税額軽減」のマイナスするタイミング

「配偶者の税額軽減」は、相続税を計算する最後のステップである、配偶者へ振り分けられた相続税額からマイナスする控除額です。

なお、振り分けられた税額から、直接1億6000万円をマイナスするのではなく、次の算式によって配偶者控除額を計算します。

「配偶者の税額軽減」=「全体の相続税」X「1億6,000万円」/「課税価格(基礎控除前)」

 

このことから解ること

基礎控除の場合には、確実に相続税の税額が削減されるのですが、「配偶者の税額軽減」は、相続税の総額が決定した後、各個人の税額を軽減する措置であるということです。

このことから、配偶者の方は税金が掛からなくても、子供等には税金が掛かってきてしまうということです。

このため、実際に支払う税金を削減するのであれば、「配偶者の税額軽減」を最大限に利用した方がお得ですが、先に示した様に2次相続まで考えた場合には疑問が残ります。

 

覚え方は『最低でも』1億6000万

今まで、「配偶者の税額軽減」は、最低でも1億6000万円とお伝えしてきましたが、厳密には、

配偶者は、1億6000万円か、法定相続分のいずれか多い金額までは相続しても相続税がかかりません

このため、「配偶者の税額軽減」は以下の計算式になります。

「配偶者の税額軽減」=「全体の相続税」X(「1億6,000万円」又は「法定相続分」)
/「課税価格(基礎控除前)」

ということです。

つまり、子供が1人いる家庭で夫が亡くなった場合には、妻の方は1/2の財産を相続税を支払うことなく受け取れるということです。
それが例え10億であっても100億円であっても、半分は無税でそのまま受け取ることができるということです。

ただし、子供の場合にはその様な制度が無いので、100億円の半額の50億円を相続すると、最大の相続税率である55%の相続税を納税しなければならなくなるのです。

だからと言って妻が死んでも使い切れない様な多額のお金を残してしまうと、2次相続時に今度は子供が多額の相続税を支払わなければいけなくなるのです。

落とし所としては、残りの人生設計をしてその為に必要な金額だけを相続して残りは子供に相続させるのが最も良い方法ではないかと思います。

 

子供や親戚等で多くのお金を渡したい人が居る場合

そうは言っても、「余裕のある生活をしたいのでできるだけ多くの財産を相続したい。」という方も居られるかもしれません。

そんな方は、「生前贈与」を検討してみてはいかがでしょうか?

子供が多い方や親類縁者にお世話になった方が居るのでお金を渡したい場合に有効です。

人生の終焉が見えて来た時に、各人に対して毎年110万円の生前贈与を行うのです。

例えば、渡したい方が10人居る場合には、年間で1,100万円の贈与をすることができるので、5年間で5,500万円も贈与することが可能です。

この時、贈与する側は1円も税金を払わなくて済みますし、受け取る方も他から贈与を受け取らない限りは、1円も税金が掛かりません。

 

 

 

配偶者控除の要件

戸籍上の配偶者であること

相続開始時点で、戸籍上の配偶者であることが要件になります(外国籍の配偶者でもOKです)。

そのため、事実婚や内縁の妻(夫)が遺産を承継する場合は、配偶者控除の適用はありません。

また、結婚してからの期間は問われませんので、婚姻後、すぐに相続が発生した場合でも、配偶者控除を受けることができます。

 

遺産の分け方が決まっていること

配偶者控除を受けるためには、申告期限までに遺産の分け方を確定させる必要があります。

申告期限までに遺産分割が決まらなかった場合には、仮に法定相続分で相続したものとみなして、相続税申告書を税務署へ提出し、相続税を納める必要があります。

その際、配偶者控除は使えないので、遺産分割が決まっている場合と比べて非常に大きな額の相続税を払わなければいけません

ただし、その後に遺産分割が決まり、所定の手続きを行えば、配偶者控除を使うことが可能です。

つまり、差額の相続税を返してもらえるわけです。

差額を返してもらえるとはいえ、一時的であっても多額の相続税を払わなければいけません。

このような事態を避けるためにも、遺産分割はスムーズに決めておきたいところです。

 

相続税申告書を提出すること

たとえ相続税が0円だったとしても必ず相続税の申告はしないといけません

配偶者控除を使う場合には、下記の書類を税務署に提出しなければいけません。

  • 故人の出生から死亡までの戸籍(コピー可)
  • 相続人全員の現在戸籍(コピー可)
  • 遺産分割協議書または遺言書のコピー(縮小,拡大コピーは不可)
  • 印鑑証明書の原本(発行期限はありません)

申告期限までに遺産分割が決まらない場合には、下記の書類が必要になります。

  • 申告期限後3年以内の分割見込書

Q&A

相続人が配偶者のみの場合

この場合、妻(配偶者)の法定相続分は1分の1になります。

つまり、全財産を相続させても、妻に相続税はかからないことになります。

ただし、相続税の申告は必要になりますので、忘れないようにしましょうね。

配偶者が相続放棄した場合

相続放棄をした場合であっても、生命保険金を受け取ることは可能です。

ただし、相続放棄をすると配偶者であっても相続人ではなくなるため、生命保険の非課税枠は使えない点に注意しましょう。

一次相続の分割前に配偶者が死亡(数次相続)

相続人が複数人いる場合

残された相続人が複数人いる場合は、父と母、それぞれの遺産分割協議を行うことが可能です。

ここでのポイントは、既に亡くなっている人にも相続させることができる、という点です。

既に亡くなっている配偶者に相続させた場合でも、配偶者控除は適用可能です。

相続人が一人の場合

残された相続人が一人である場合は、父と母の遺産分割協議はできなくなります

そして、父から母に渡った財産については、配偶者控除は適用できないという説が有力です。

 

なお、数次相続の詳しい説明については、以下の記事を参照下さい。

障害者控除との併用は可能?

障害者控除の要件を満たせば、もちろん一緒に配偶者控除も使うことが可能です。

一緒に使う場合(併用)、配偶者控除が優先的に適用されます

『配偶者控除を引いてもなお、相続税がある場合には、障害者控除を引く』という順番になります。

実務上は、ほとんどの場合で、配偶者控除で配偶者の税額は0円になるので、配偶者の障害者控除は、他の扶養義務者である相続人で使うことになりますね。

期限後申告でも使える?(無申告)

配偶者控除は、申告期限を過ぎてからの申告(期限後申告)でも使うことは可能です。

うっかり配偶者控除を使い忘れた場合

一度、配偶者控除を適用しない状態で相続税申告書を提出してしまうと、『配偶者控除を使わないことを選択した』と扱われるため、その後に修正することはできません

配偶者が認知症を患っている場合

認知症などにより、遺産分割協議に参加することが難しい方がいる場合には、後見人を選任して遺産分割協議を決める必要があります。

後見人が承認すれば、配偶者控除を使うことは当然可能です。

まとめ

夫婦間の相続においては最低でも1億6000万円まで相続税はかかりません。

しかし、必要以上に相続させすぎると、2次相続で非常に割高な相続税を払うことになります。

相続税が削減されるように遺産分割することも大事ですが、一番大切なのは、残された人の今後の生活です。

残りの人生設計をしてその為に必要な金額だけを相続して残りは子供に相続させるのが最も良い方法ではないかと思います。

なお、相続の遺産分割に対するアドバイスは相続の専門家に相談するのが一番です。

以下の記事では、相続の専門家を紹介しているので、是非ご覧下さい。

 

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